【小説】『スター・シェイカー』を読みました。これぞまさにSFの想像力! パワープレイ過ぎるわ!

2022年2月18日






 今やSFジャンルにとっての登竜門となっているのが、SF大手の早川書房によるハヤカワSFコンテスト。この新人賞の受賞作が夏頃発表され、実に四年ぶりに大賞が選出されました。


 またこの大賞受賞作品の作者は、同時期に開催されていた電撃大賞においてメディアワークス文庫賞も受賞。二つの新人賞でダブル受賞という話題性抜群で、早川書房でも大型新人として売り出されました。


 そんな期待の超大型新人のデビュー作となった、第9回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作品『スター・シェイカー』を早速読んでみました。








  書籍情報。



  著者:人間 六度


 『スター・シェイカー』


  早川書房より出版


  刊行日:2022/1/19



  あらすじ(Amazonより転載)

 人類がテレポート能力に目覚めた近未来。事故で能力を失った赤川勇虎は、違法テレポートによる麻薬密売組織から逃亡した少女ナクサと出会う。逃亡の果て超越的な能力に目覚めた勇虎はこの宇宙の根幹に関わる秘密を知り……緊迫のハイパーインフレ瞬間移動SF!









 テレポートの普及により物流インフラが激変した近未来を描いた作品で、まず単純にこのテレポート近未来の世界観がよかったです。テレポート社会において、道路がなくなった街、従来の階段やエレベーターなどでは到底昇り降りできないような超高層建築物、人口の分散化など、「物理的な距離に価値がなくなる」というひとつのブレイクスルーで社会構造が大きく変わった様は、まさにSFらしい近未来都市と言えますね。


 また冒頭のテレポート事故の描写や、不要となり遺棄された高速道路を住処とする旧文明の民族、さらにはテレポートを駆使した超人バトルなど、テレポート設定を突き詰め想像力を駆使して拡大させたところが、この作品のポイントとなる部分かと。


 というか、この作品はテレポート設定をもとにいろいろな要素を詰め込んだ怪作ともいえる。冒頭のテレポート近未来都市のシーンもそうですけど、基本的な構図はボーイミーツガールと言える(ボーイミーツガールにしては登場人物の年齢は高いが)。その後はいい意味でライトノベル的な異能力テレポートバトルや往年のロードムービー的な要素が挟まり、最終的には宇宙規模にまで拡大していき、世界の危機や宇宙の危機と対峙していく展開は脱帽。テレポートというネタをよくここまで盛りに盛ったなという印象を受けましたね。


 これはまさしくSFというジャンルの持つ無限の自由さを体現したかのような作品で、その部分においてはまさに大賞に相応しい作品だと感じましたね。これぞSFの想像力の極致といったところ。








 このように凄まじいパワーを持った『スター・シェイカー』ですが、しかしながら読み終わってからの感想としては「納得の大賞」と「疑惑の大賞」の両極端なものを抱きました。つまりは凄い作品だけどその分瑕疵が目立ちあまりにも粗削りである点は気になりましたね。


 まず単純に、長い。単行本で400ページ越えで書籍価格も税込みで2,000円程度なのですが、さすがに新人のデビュー作でこの超大作強気価格はハードルが高かったし、実際に制御しきれていない。


 先程、近未来テレポート社会で、ボーイミーツガールで、ライトノベル的な異能力バトルで、ロードムービー的で、クライマックスでの宇宙規模のハードSFと、要素としてはてんこ盛りで勢いはあるのですけど、その各要素が微妙に噛み合ってなく、また冗長で途中ダレるところは、明らかな欠点かと。


 たとえるならば、フルコースで運ばれてくる料理を楽しみながら食べるものの、途中で味に飽きて惰性で口に運び咀嚼する感覚かも。それでも何とか食べると次の料理が運ばれてきて楽しみは復活するのですけど、その料理もまた味に飽きてしまう。次第に「長くね?」と気付く、といったものかも。


 このあたりも巻末の選評でも指摘されていまして、「構成がガバガバ」や「連作短編みたい」などといった評価でした。



 また、結局のところテレポートの具体的な理屈がわからなかった。一応作中にて説明はされているのですけど科学的なリアリティはなく、イマイチ納得できなかった。加えテレポート原理が曖昧だからこそ、途中で謎拳法でテレポート能力がインフレしていく展開にはついていけなかった。まあそれがあったからこそ異能力バトルシーンや宇宙規模のクライマックスに繋げられたともいえるのですけど、さすがにパワープレイ過ぎるわ!






 といった感じでハヤカワSFコンテストの四年ぶりの大賞受賞作品『スター・シェイカー』でしたけど、個人的な感想としては「熱量は素晴らしいけど、もっとシンプルにまとめられていたら傑作だった」というものに落ち着きました。


 先程も「納得の大賞」と「疑惑の大賞」と評しましたけど、実際力業で大賞をもぎ取った感がありましたね。才能を感じさせるけど、その分まだまだな部分が目立つといったところですね。



 これ巻末の選評にもありますけど、大賞を争い結果優秀賞となった『サーキット・スイッチャー』はクオリティ高いけどSFとして小ぶりみたいな評価でして、大賞の『スター・シェイカー』とは真逆の評価なんですよね。結局SFとしての突拍子具合で選考したらしいですけど、この作品と巻末選評により、むしろ優秀賞の『サーキット・スイッチャー』の方が気になってきましたね。Amazonでも高評価みたいですし、ちょっとチェックしてみようかと思います。






 という感じで、第9回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作品『スター・シェイカー』でした。







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22年3月14日公開

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