【小説】『100文字SF』を読みました。近年小説のファストフード化が進んでいるような気がした
2021年6月1日
4月頃にツイッターで見かけた記事によると、どうやらショートショートブームというのが起こっているそうで、確かにここ数年やたらと掌編集みたいな本が増えたような気がしますし、それこそ小説投稿サイト「カクヨム」においても「5分で読書~」みたいな掌編コンテストなどが何回か開催されていますので、そういう意味であれば確かにショートショートブームというのはあるのかもしれません。
一応該当の記事のリンク。
『意外と知らない…空前の「ショートショートブーム」が起こっている「これだけの理由」』
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81953
と、そんな中、記事内でも紹介されていました『100文字SF』ですが、以前から少し気になっていたものの「100文字でSFって、どうなのよ?」という気持ちがあったためスルーしていましたけど、せっかくの機会なので読んでみようと思い、そして今の今まで積読していました。
そんなわけで今回は『100文字SF』について……と言いたいが、まあ100文字しかない作品を集めた作品集ですので、そんなに語ることもない(語ると普通にネタバレしてしまいそう。というかそもそもネタバレの心配をするほどの内容もないのですけど)ので、半分くらいは件のショートショートブームについて個人的に思っていることなどを書いていこうと思います。
書籍情報
著者:北野 勇作
『100文字SF』
早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版
刊行日:2020/6/4
あらすじ(Amazonより転載)
100文字SF、集まれ!新しい船が来たぞ。えっ、沈んだらどうしようって?馬鹿、SFが死ぬかよ。それにな、これだって100文字SFなんだ。北野勇作がそう言ってたろ。さあこの紙の船に、乗った乗った!
『かめくん』で日本SF大賞を受賞している作者さんによる掌編SFで、ツイッターに投稿された数千作品のうち200作を収録したのがこの書籍版『100文字SF』となります。
一編が本当に100文字程度であり、しかもその100文字の中でSF感を演出し、さらにちゃんとオチまでつけている。正直ここまで圧縮してもちゃんとSF作品として、ひいては小説として成立することに驚きました。
ただまあ一編が100文字程度なので、小説として読み応えがあるかと言えばそうでもなく、それこそまさにツイッターのツイートを読む感覚に近いかと思います。というかそもそも初出がツイッターの所謂ツイッター小説なので、当たり前といえば当たり前の感覚なのですけどね。
で、実際に書籍版を読んでみたのですけど(電子書籍にて)、
ま さ か の 1 ペ ー ジ 一 編 !
いやまあ「100文字でSF」がコンセプトなので演出としては素晴らしいのですけど、本としてはすごくスッカスカなんですよねコレ。1ページ一編で200作。
大体長編小説とかですと10万字前後の文字数となりますし、文庫200ページの作品であれば10万字を切って9万字とか8万字の小説になるかと思います。そう考えるとこの『100文字SF』は2万文字と、通常の文庫小説の1/5とか1/4程度の文字数ということになります。
本当にあっさり読めてしまい読後感は皆無。一編100文字なのでリアルに秒で読めてしまい、全体としても数分か遅くとも数十分で読めてしまう。
で、しかも文庫なので600円くらい。いや確かに文庫200ページなら600円は妥当な値段ですけど、でもこの内容で600円も払って買ったのか……という気持ちを読み終えて感じましたね。
ですが、まさにこういうところが昨今ショートショートが親しまれる要因だと思います。
はじめに紹介しました記事にも取り上げられている通り、近年の小中高校では「朝の読書」として一日十分程度の読書時間を設けている学校があるそうです(ちなみに自分の子供の頃はそういった読書時間は設定されていませんでした)。
またそういった「朝の読書」という需要に狙いをつけたのがつまり「5分後に~」みたいないちジャンルであり、カクヨムにおいても掌編のコンテストを開催したり、はたまたカクヨムコンに朝読賞を設けたりしています。(というかカクヨムコンの「朝読賞」ってそういう作品を求めているのかと今更ながら気づきました)
それに、別にこういったショートショートは何も学生の短い読書時間用のものではなく、それこそ仕事で忙しいサラリーマンであったり、家事や育児で忙しい主婦(主夫)が隙間時間で読める小説、という需要を捉えているのだと思っています。
そうした学生向きであれ忙しい社会人向けであれ、普段なかなか読書していない方にとっては最適だと思いますし、それこそこれまであまり読書とは縁のない方でも読書入門としても最適なものだとも思います。
とはいえこういったショートショートブームは書籍で発生しているわけではないと個人的に感じています。むしろ書籍からの流行というよりはネット発の流行であるような気がします。
今回読んだ『100文字SF』もツイッターに投稿された小説ですし、記事の中で紹介されている書籍には小説家になろうなどで投稿されていた掌編集であったり、また先述した通りカクヨムでの掌編コンテストであったりと、SNSや小説投稿サイトなどといったネットを起点にムーブメントとなっている傾向があると感じています。
それこそ小説投稿サイトに投稿されている所謂Web小説の類だって、異世界転生にしろラブコメにしろ、一話2000字から3000字のショートストーリーを定期更新して、何十話何百話、何十万字とか何百万字と連載していくスタイルこそ、隙間時間で楽しむ読書と言えるのかもしれません。
小説投稿サイトの連載作品って、そのスタイルを考えると小説というよりは漫画のような楽しみ方の方が近いかと思います。月曜日の朝、登校中にコンビニへ立ち寄りジャンプを買ってきて、授業と授業の合間の休み時間で読む。そういった少年漫画誌が担っていた楽しみを、スマートフォンの台頭によるネットの利用にあわせて、小説投稿サイトの作品にそういう需要を求める読者が入ってきた、みたいな。
じゃあ実際に学校で朝の読書時間を設けますとなったとき、「ジャンプ? 漫画はダメだろ」「スマホはゲームとかラインとかしそうだからダメ」みたいな感じで紙の本という縛りが設けられ(このあたりはただの想像です)たところで、じゃあその基準、公の場での隙間時間でできる読書として、こういった「5分後に~」みたいな掌編集の書籍が求められたのでは、と個人的な妄想をしてみたり。
そう考えると現在語られているようなショートショートブームというのは最近始まったものではなく、むしろ十年以上前からネットで生まれた流れがより大衆化していった、と捉えるべきなのかとも思ったりします。
というかそもそもの話をすれば掌編小説など昔からあるわけで、それこそ星新一などの大御所も存在しているわけですから、現在のショートショートブームというのは文学文芸的なブームというわけではなく、むしろ現代社会においての生活様式から求められ発展したブームという側面の方が強いような気がしています。
冒頭の記事で書かれているショートショートブームについて抱いた印象がまさにこういうもので、その印象を簡潔に言い表すとすると、サブタイトルにあるように「小説がファストフード化している」ということになるのかと。
マックで買ってきたハンバーガーで昼食を済ませてしまうように、小説も隙間時間にあわせて手軽さを求められている、みたいな。そういったものが、記事で語られているようなショートショートブームの根幹にあるのではと個人的に思いました。
最初に予告した通り後半から『100文字SF』の内容とは全然違うことを語ってしまいましたが、今一度『100文字SF』の魅力をお伝えすると、100文字という短い尺の中でここまでのSF作品として、そして小説として成立させているのは驚きであり、それだけでも一読の価値はあるかと思いますので、是非ともどうぞ。
また掌編SFということでした、以前ここで記事にもした『5分間SF』(著:草上 仁)もオススメです。
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20年1月3日公開
【小説】『5分間SF』を読みました。まさにタイトル通り! 初心者歓迎お手軽SF集
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054893296299
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