【小説】『七日目は夏への扉 』を読みました。キャラがホントいい性格してるなーこの作品
2021年5月20日
ちょっとバタバタしているせいかなかなか読書に時間を割けない今日この頃。普段メインの読書時間は仕事への行き帰りの電車の中なのですが、とはいえ家にいるときもちょっと読んでますし、さらに言えば仕事の待ち時間のときにも読んでいまして、で、最近はその家とか仕事とかの隙間時間がなくてホント電車の中でしか読めてない。いやそんなに長い時間電車に乗らないので、全然ページが進まない……。
という事情のため手軽に読めるページ数の少ない作品を読もうと探していたのですが、こういうときに限って気になる作品がない。理想を言えば200ページくらいの文庫がいいんですけど、気になったタイトルがほとんど倍以上のページ数がありまして、なかなか手が出ませんでした。
というタイミングで古典SFをパロディしたかのようなタイトルを見つけましたので、半ば衝動的に買いました。いえこの作品も300ページくらいあったんですけど、まあそれくらいなら許容範囲かも(?)しれない。
書籍情報
著者:にかいどう 青
『七日目は夏への扉』
講談社 講談社タイガより出版
刊行日:2016/8/18
あらすじ(Amazonより転載)
学生時代の恋人・森野の訃報。初めて聞くはずのそれをわたしは知っていた。残された事実から推測すると、森野は自殺したのかもしれない。それも殺人を隠蔽するために。死の真相をさぐるうち、わたしの一週間が崩れだす。火曜日の次の日は月曜日。次は水曜日で…。意味がわからない。けど、あいつが死ぬのはきっと七日目だ。なら、わたしのやるべきことは決まってる―。
タイトルを見てロバート・A・ハインラインの『夏への扉』を連想しました。『夏への扉』といえばタイムトラベル系SFの名作。ただ実は『夏への扉』を読んだことがないのです。自分としてはよくあるのですが、名作だからこそなぜかあらすじだけ把握していて実際に作品に触れてない、というパターンです。まああの、本家『夏への扉』は機会があれば読もうと思っています(読むとは言ってない)。
そんなこんなで『七日目は夏への扉』というタイトルを目にしたとき「ハインライン?」と思ったのですが、実際に『七日目は夏への扉』を読んだところあまり『夏への扉』要素がないといったところ。単純に時間跳躍するお話なので、広義的に『夏への扉』のパロディ&オマージュということでよろしいでしょうか? いや本家『夏への扉』が未読なので詳しくはわかりませんが。
ただよくあるタイムトラベルものタイムリープものというわけでもなく、時間がランダムに訪れるというギミックが施された設定になっています。基本一週間の出来事を描いた作品なのですが、体感の時間は一定のまま曜日だけがランダムになっている具合。
カレンダー的に未来に行くこともあれば過去に行くこともあって、作中人物が制御できていないだけで一般的なタイムリープをしていることに変わりありません。ただこの制御できてないタイムリープだからこそ、ある種の新鮮さや目新しさがあったような気がしています。ほら、よくあるタイムリープものって、方法はどうであれ主人公の意思でタイムリープするかしないかできるところがあると認識していますので。
そういう意味であれば今年の初め頃に読んだ小説『ループ・ループ・ループ』と近いものがあるように思えます。『ループ・ループ・ループ』はループ系のタイムリープものなのですが、この作品ではタイムリープしている人物が明かされてなく、主人公は誰かのループに巻き込まれている状況で、果たしてループしている人物は誰なのか? というミステリー作品になります。こちらも主人公が制御できていないタイムリープということでは似たような作品かと思いました。
まあ今回読んだ『七日目は夏への扉』も『ループ・ループ・ループ』も、時間が飛んでいる現象のからくりなどは明かされず「そういうものだから」でまとめられていますので、狭義のSFというわけではなさそうです。
(近年、とくに『君の名は。』以降不思議パワーでタイムリープする作品が増えたような気がしますが、そういった作品はSFではなくファンタジーではなかろうか? というか今の時代SFのサブジャンルとして時間跳躍ではなく、時間跳躍という大きなジャンルの中でSFか否かという構図になっているような気がしてます)
この『七日目は夏への扉』という作品は、中盤からミステリー色が強くなる構成をしています。前半部分では時間がランダムになっていることに違和感を覚えつつも日常を過ごし、真相の片鱗といいますか伏線を散りばめるパートになっているといったところ。
そして中盤を過ぎて後半になるとそれらの伏線が徐々に回収されていき、タイムリープの根底であろう事件の謎への解決パートとなっており、構成的にも読み応えが増してくるのです。このあたりはまさにミステリー小説らしさがありますね。
あとこの作品の登場人物たちが面白い。とくに主人公の女性がですね、とにかくいい性格しているんですよね。男勝りといいますかサバサバといいますか、むしろ破天荒さがあるものの社会人としての気品さもちゃんと持っているというか、キャラクター性が絶妙なんですよね。嫌味とかではなく好感が持てるという意味で、ホントいい性格してる。この主人公の独特な視点がこの作品の面白いポイントの一つなのかもしれません。
それとキャラクターということであれば、主人公の姪で小学五年生のひびきちゃんが可愛い! 子供とは思えないほど大人びた言動をするしっかりした子供なのですが、同時に年相応のあどけなさもちゃんとあるといった具合で、こちらも絶妙なキャラクター性なんですよね。ちょっと昔ですけど『みなみけ』の千秋みたいな子。
主人公も含めなかなかにいいキャラした人物が登場する作品で、そういうことであればこの『七日目は夏への扉』はキャラクター小説とかキャラ文芸としても魅力ある内容になっているといったところですかね。
まあ、この作品の大体の元凶はとあるメンヘラで、そのメンヘラも狂人としてキャラが濃いのですが、それ以外でも「あ、こいつもヤベェ奴だったのか」みたいな人物もいて、いろいろな意味でいい性格してる人物が登場する作品でした。
という感じで今回は『七日目は夏への扉』を読みました。
他の著作を調べてみましたら、この作者さんどうやら児童文学系の作家さんみたいですね。どうりで人物のキャラクター性がいいわけだ。児童文学にあるようなキャッチーなキャラクター性というよりは、この『七日目は夏への扉』ではシックでシリアスなキャラクター性という感じがして、読後になんか納得しました。
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20年1月24日公開
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