【小説】『ふたつの星とタイムマシン』を読みました。SFでも気楽に楽しめるタイプのSF作品

2020年11月24日





 ちょっと前にツイッターで自分のツイートがプチバズりました。「いいね」が100超えたのは初めてです。とはいえそのツイートは他の方のツイートに対して自分のコメントを載せた所謂引用リツイートなので、厳密にいえば自分のツイートが100パーセントでバズったわけではないのですけどね。でもまあ、「こんなに拡散されるもんなんだなー」と呑気に捉えていました。


 肝心の引用リツイートの内容ですけど、SF警察について苦言を呈するものです。元ツイートは話題作『鬼滅の刃』の吹き出しを利用してSFとの付き合い方を記したコラ画像です。一応引用リツイートの方を載せておきます。



 https://twitter.com/yuki_sugiura_/status/1324155209057120257



 で、そういえば読書メーターで見かけた軽い感じで読めそうなSF小説を買ったまま積んでいたことを思い出し、SF警察のことでプチバズったことですしいい機会に読もうということで手に取りました。……いい機会というか、いい加減読もうという気持ちだったかも。



 タイトルは『ふたつの星とタイムマシン』です。








  書籍情報



  著者:畑野 智美


 『ふたつの星とタイムマシン』


  集英社 集英社文庫より出版


  刊行日:2016/11/18



  あらすじ(Amazonより転載)

 少し不思議なことの起こる世界。そこには、タイムマシンがあり、超能力者もいる。過去の自分に大切なことを伝えようと、研究室にある謎の円筒に乗りこんだ大学2年生の美歩(「過去ミライ」)、超能力アイドルをめざしテレビ出演する女子中学生(「自由ジカン」)、高性能の家庭用ロボットを手に入れた男子大学生(「恋人ロボット」)ほか、ときめきや友情を描いた全7編の短編集。








 この『ふたつの星とタイムマシン』は短編集で、小説誌に掲載されたものを一冊にまとめたものとなってます。だた単なる短編集というわけではなく、それぞれの短編が微妙にリンクしていまして、短編集は短編集でも連作短編といった意味合いが強いかもしれません。


 小説の内容としても日常的な友人関係や恋人関係に不思議要素をブレンドしたもので、恋愛SFとカテゴライズできるもののそこまで強くラブストーリーをしているというわけでもありません。本当に日常の一コマを切り抜いたかのようなお話が収録されています。


 SFとしてもタイムマシンや人型ロボットといったSF特有のガジェットは登場しますが、SF要素の割合的には超能力の方が多く、さしずめ超能力SFとして読めます。


 で、超能力SFですから、そもそも超常現象的な超能力が登場している時点で科学的にどうのこうのというのは野暮でしかなく、さらにタイムマシンや人型ロボットについてもSF的な想像力をもって描かれていますが科学的根拠とかは全く書かれていません。きっとSF警察の方が読めば「こんなのSFじゃない‼ ファンタジーだ!」と憤慨されるかもしれませんね。



 ですが、そもそもSFとはそこまで科学的根拠に基づいて書かれているわけでもないジャンルです。サイエンス・フィクションなのに科学的根拠に基づいていないとはなんだとなりますが、遡ってみれば名作といわれている古典SFなどもよく読んでみるとトンデモ科学のオンパレードで、科学考証としてはガバガバもいいところ。


 というか昔はホラーもファンタジーもひとまとめにSFと認識されていたくらいです。まあそれらがちゃんとジャンル区分されて正統派なサイエンス・フィクションが残ったことでSF警察が幅を利かせはじめ、果てにはSF冬の時代とかにもなったのではと個人的には思っています。



 それに以前この書き物で記事にしたことがあるかと思いますが、かの日本を代表するSF作家である藤子・F・不二雄大先生がSFを「すこし・ふしぎ」と解釈していましたしね。実際に藤子・F・不二雄作品を読み解いていくと現実的な日常とSF的な非日常を融合させた正真正銘サイエンス・フィクションです。(まあ言葉通りの少し不思議はさすがにファンタジーだとは思いますけどね)



 ということを加味していくと、短編集『ふたつの星とタイムマシン』は古き良きSFらしさを現代の文脈で描いた、いわばSF要素をリバイバルしたSF作品、といった位置づけになるのではないでしょうか。これといってペダンチックに理論を書き連ねるのではなく、何気ない日常の中に「もしかしたらあり得るかも?」な非日常をスパイスする。こういった作品も立派なサイエンス・フィクションだと思います。






 というか思うのがですね、SFのことをあまりよく知らない方ほどSFを狭義に捉えがちではなかろうか? サイエンス・フィクションだから科学要素がなきゃダメだとか、不備のない理論武装しなければいけないなど、ご自身が無自覚にSFというジャンルを狭めているのではと思います。


 昨今でも星雲賞(国内で最も歴史のあるSF賞)のコミック部門で『こち亀』や『それ町』が受賞するくらいですからね。昔もそうですけど「SFファンが楽しんだ作品がすなわちSF」「誰かがSFといえばその作品はSF」といった流れは現代にもしっかりあるように思えます。


 自分もいちSFファンとしてそれなりにSF作品に触れていますけど、SFに触れれば触れるだけどんどんSF定義がゆるゆるになっているような気がしますね。何年か前なんかアニメ『響け! ユーフォニアム』と『リズと青い鳥』をSF認定した自分がいるくらいですし。




 古き良きSF作品、真のSFファンの寛容さ。そういったものがSFというジャンルにはあるのだと思います。SFは懐が深い。


 むしろSFを狭義に捉えたり、果てにはSF警察などは、正直に言えばSFジャンルにとってのにわかファンでしかないかと。そういうのはハードSFでやってください。というか科学的根拠を突き詰めたSFがつまりは「ハードSF」であるので(「ハードSF」は設定や世界観がハードという意味ではなく、正確な理論で描かれたSFのことをさします)、SF警察ではなくハードSF警察として作者さんとガチンコの科学討論でもしてください。







 ……なんだか全然作品の紹介もしていなければ感想も書いていませんが、『ふたつの星とタイムマシン』は手軽に気楽に読めるタイプのSF小説です。とくにお話そのものや登場人物たちのキャラクター性には女性的な印象を抱く要素が多く、そういった意味では女性向けSF作品といった面もあるかと思います。「SFって難しそう……」と感じていらっしゃる方に向けたSFの最初の一冊としてオススメできる作品だと、実際に読んで感じました。


 SFとして、最初の『過去ミライ』と後半に掲載されている『恋人ロボット』は結構SF色強めの作品でしたね。『過去ミライ』は正統派タイムリープものですし、『恋人ロボット』は劇場アニメ『イヴの時間』や小説『BEATLESS』などに近い感じで人とロボットを描いています。





 という感じで、SF初心者歓迎(とくに女性)なSF小説『ふたつの星とタイムマシン』でした。





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