【小説】『15歳のテロリスト』を読みました。テーマ性に優れたジュブナイルサスペンスだ

2020年11月16日





 以前カクヨムの公式企画で『読書で考える新型コロナウイルスとの共存』というものがあったのですが(https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054897948900)、そこで何個か同じ小説のことを取り上げられていました。そのときは「そんなに有名な作品なのだろうか?」と思い、わかりやすいタイトルということもありひとまずタイトルだけを覚えておきました。


 そのカクヨム公式企画とはまた別の話なのですが、ツイッターのタイムラインを見ているときにたまたま目にとまった文芸系アカウント(リツイートで自分のタイムラインで流れてきたもの)のプロフィールに「影響を受けた小説~」や「好きな作品~」みたいな紹介で例の小説のタイトルがあったものですから、「そんなに影響力のある小説なのか⁉」と感じ、ならちょっとチェックしておいた方がいいなと思って手に取り今に至ります。


 というわけで今回は個人的に勝手に気になった小説『15歳のテロリスト』について。









  書籍情報



  著者:松村 涼哉


 『15歳のテロリスト』


  KADOKAWA メディアワークス文庫より出版


  刊行日:2019/3/23



  あらすじ(Amazonより転載)

「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか?進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた―。








 この作者さんといえば電撃大賞で大賞を受賞した『ただ、それだけでよかったんです』が有名かと思います。自分も電撃大賞受賞作品として手に取って読んだ記憶があります。


 デビュー作はとてもメディアワークスらしい作風だったのですが、なぜか電撃文庫から出ました。でも今回の『15歳のテロリスト』はちゃんと(?)メディアワークス文庫から出てます。読んで改めて思ったのが「やっぱりメディアワークス向きの作者さんだな」という印象でした。




 肝心の小説『15歳のテロリスト』についてですが、端的にいってしまえばサスペンス作品です。サスペンスでも犯罪を題材にしたクライムサスペンスといったところ。


 とくにこの作品では犯人が未成年の少年で、かつ以前に少年犯罪によって家族を失った被害者家族であり、「なぜ少年はテロリストになったのか?」という物語の観点から、現行の少年法について深く切り込んだ内容となっています。


 このあたりはよく取材されており、フィクションとは思えないくらいのリアリティある描写は圧巻でした。少年法の甘さ、厳罰化への動き、改正から、被害者家族の感情やあるいは加害者家族の末路など、普段の現実の日常生活においてもあまり耳に入ってくるタイプの話ではないため、こうして物語として取り上げられ描かれるのはなんだか妙な新鮮さがありましたね。





 また、この作品では少年犯罪の観点から、世間での誹謗中傷、無責任な擁護、根拠のない批判など、無関係な立場からの声というものにもとてもいい問いを投げています。


 とくに今はネット時代ということもあり、個人の独善的な正義感が容易に拡散できてしまえる環境のため、こうした見えない声の集合体に当事者たちは影響されてしまうというのは盲点ともいえる観点でしたね。


 もちろん以前からそういったネットや報道での独善的な正義感には「主語がデカい」「主張が強い」として辟易していたのですが、その「主語がデカい」「主張が強い」言葉によって、「被害者はかわいそうであるべきだ」「加害者の家族も同罪であるべきだ」として当人たちが影響を受けてしまい、結果双方進み出すことが感情的にできなくなってしまい泥沼となってしまう。もちろん今回のこれはフィクションとしての話ですが、しかしながら現実であり得ない話というわけでは決してなく、むしろ現実でも起こっているべき現象であると認識した方がいいかと思います。


 個人が各々の正義感を抱くのはいいのですが、それが拡散され他の声と合わさり拡大していった果てに思わぬ影響を生み出してしまっている。そういうことは今のネット時代において各個人が肝に銘じるべきことなのかもしれませんね。




 ……と考えて、なるほどネットでの個人の独善的な正義感が拡散されることについて、今年はまさにコロナがありましたねー、と納得しました。ほらあの、自粛警察みたいなやつです。自粛警察もしている本人は正義感からの行動かもしれませんが、その正義感の在り方が間違っているみたいな感じの。


 それにちょうど新型コロナウイルスの緊急事態宣言のときに「正義中毒」についての記事を読んでいましたので、今回小説『15歳のテロリスト』を読んで事件に対する世論のシーンでは頭の片隅に正義中毒のことが自然と思い浮かびました。



(該当の記事:これからは「人を許せない」気持ちが増幅していく/脳科学者・中野信子さん  https://www.mylohas.net/2020/04/209713nobuko_nakano01.html)



 そういうこともあり、カクヨム公式企画『読書で考える新型コロナウイルスとの共存』でこの『15歳のテロリスト』を取り上げる方が多かったのはそういうことか、といろいろと腑に落ちるものがありました。まさに現代社会への痛烈なテーマでもありましたね。







 そうそう、肝心の小説の内容ですけど、この小説は記者と少年の二つの視点で語られ、また話が進むにつれて事件や少年への認識が二転三転していく様はまさにサスペンスらしさがあり、物語として非常に読み応えがありました。起伏のある作品で純粋に面白い小説でした。








 という感じで、今回は小説『15歳のテロリスト』についてでした。








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