2020年 夏

【小説】『人間たちの話』を読みました。SFだけどSF以上にヒューマンドラマだった

2020年7月4日





 今年になってから、早川書房のハヤカワ文庫JAでSF作品集が多く出版されている印象を受けます。こちらの記事にも書きました『2010年代SF傑作選』もそうですし、『5分間SF』の第二弾となる『7分間SF』も出まして、さらにはこの夏もいくつものSF作品集が出版される予定だそうです。なんだか今年は短編SFのブームが来ているのかもしれませんね。いえSF的にはショートショートと言うべきか。まあどちらでもいい。



 そんなこんなで、自分もSF作品集を読んでいまして、『7分間SF』の次に読んだ作品集が『人間たちの話』です。今回はSF作品集『人間たちの話』の話。











  基本的な書籍情報。



  著者:柞刈 湯葉


 『人間たちの話』


  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版


  刊行日:2020/3/18



  あらすじ(Amazonより転載)

 どんな時代でも、惑星でも、世界線でも、最もSF的な動物は人間であるのかもしれない…。火星の新生命を調査する人間の科学者が出会った、もうひとつの新しい命との交流を描く表題作。太陽系外縁部で人間の店主が営業する“消化管があるやつは全員客”の繁盛記「宇宙ラーメン重油味」。人間が人間をハッピーに管理する進化型ディストピアの悲喜劇「たのしい超監視社会」、ほか全6篇収録。稀才・柞刈湯葉の初SF短篇集。










 カクヨムユーザーであれば作者名を見てピンとくるものがあるでしょう。そうです。カクヨムSFでおそらく一番有名な作品、あの『横浜駅SF』の作者です。かつてのペンネームは「イスカリオテの湯葉」でした。



 そんな『横浜駅SF』の作者による作品集がこの『人間たちの話』になります。主に早川書房のSFマガジンに掲載された短編を集めた一冊になっております。


 収録作品は、


『冬の時代』

『たのしい超監視社会』

『人間たちの話』

『記念日』

『No Reaction』


 となってます。





 ネタバレにならないようかなりザックリと各作品を紹介しますと、『冬の時代』は氷河期でのオニショタもので、『たのしい超監視社会』は『1984年』のパロディ。『人間たちの話』はオジショタで、『記念日』は人×岩。『No Reaction』は透明人間の話です。……ザックリし過ぎて全然内容が伝わっていないかと思いますが、一応要点だけをまとめるとこんなお話になっています。ちなみにですけどBL要素はありません。こちらの書き方が悪いだけです。





 全部の作品を通して見てみると、まさしく「人間たちの話」といえるお話です。これは収録されている作品『人間たちの話』がそのまま作品集の表題になっているということもありますが、おそらく本質的な部分として「人間」をテーマにしたSFを集めたからこそ、こういったタイトルになったのではと思います。


 それこそ『たのしい超監視社会』ではディストピアにおいての人間の性をコミカルに描いていますし、何なら『記念日』は突如部屋に岩が現れた男について延々と描写している作品ですからね。個性的な語り部による個性的なストーリーで、コメディに富んだものからシリアスに仕上げたものまで、飽きさせない一冊だったような気がします。表題作の『人間たちの話』もまさにザ・ヒューマンドラマみたいなお話で、とても素晴らしい作品でした。






 ジャンル的にはSFで間違いありませんが、話の構成とかオチとかはまさにヒューマンドラマ的であると感じました。ただ同時にサイエンス・フィクションとしての物足りなさを感じたのも確かです。これは決して悪い意味ではなく、むしろ「短編にするにはもったいない」と思わせるくらいのいいネタばかりという意味です。


 『冬の時代』とかはまんま長編作品のプロローグみたいな感じでしたし、『人間たちの話』も長編作品として読んでみたいと思わせるものでした。『記念日』なんかは結局岩とは何だったのか謎でしたし……。その他の作品でも、もっと風呂敷を広げてその先を見てみたいものばかりでした。


 まあSFマガジン掲載作品ですので、尺的な制約等々あったのだと思いますけど、もし機会があるのであれば長編版とか続編みたいなかたちでより掘り下げたものを読んでみたい気持ちがありますね。ほら、百合SF作品集『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』に収録されている『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』(著:小川一水)も長編化しましたし。短編が長編化する例はあるのでワンチャンあるかもしれない。








 まあそんなこんなで、今回は「イスカリオテの湯葉」改め柞刈 湯葉作品『人間たちの話』を読みました。







 最初に触れましたけど、今年のハヤカワはSF作品集が熱く、とくにこの夏は、『2010年代SF傑作選』をまとめた伴名練氏による新たなアンソロジー『日本SFの臨界点[恋愛篇]』と『日本SFの臨界点[怪奇篇]』が刊行されるというビッグイベント。早川書房のツイートによれば、何やら『2010年代SF傑作選』と『日本SFの臨界点』の二つで現在の国内SFシーンが追えるとかなんとからしいです。こちらも楽しみにしてます。





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