【小説】『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』を読みました。カクヨムSFがついにハヤカワ参戦!?
2018年12月13日
今やSFの登竜門となった早川書房主催「ハヤカワSFコンテスト」。その第6回目となった今年のコンテストの結果が8月に発表され、11月には早くも受賞作が書籍化されました。優秀賞を受賞したのはsanpow(出版時の筆名は三方 行成)の『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』
で、この『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』ですが、実は以前カクヨムに投稿されていた作品なのです。確か当時のSFジャンルで唯一の☆四桁作品だったような気がします(うろ覚え)。カクヨム作品がついにハヤカワ新人賞を受賞しました。
というわけで今回はよい子のためのトランスヒューマンガンマ線バースト!!
書籍情報
著者:三方 行成
『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』
早川書房より出版
刊行日:2018/11/21
あらすじ(概要)
第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作
はるか未来、あるところにシンデレラという人類の進化形・トランスヒューマンの少女がおりました。〈魔女〉から拡張現実ドレスを与えられた彼女はカボチャ型飛行体に乗り、お城の舞踏会へ向かいます。しかしその夜、空から宇宙最強の爆発・ガンマ線バーストの閃光が降り注ぎ――「地球灰かぶり姫」ほか「竹取戦記」「スノーホワイト/ホワイトアウト」など、古典に最新の想像力を配合した童話改変SF全6篇を収録。超個性派による第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作!
実は前から知っていたというか、カクヨムに掲載されていた頃から知っていた作品でした。ただ自分が知ったときにはもうすでに人気作となっていて、反応を見るにとても面白い作品なんだろうなと感じていていつか時間があるときに読んでみようと思って……そのまま忘れていました!
そして忘れたことすら忘れ、ようやく思い出したのがまさに第6回ハヤカワSFコンテストの一次審査の結果発表でした。自分は応募していませんでしたが冷やかしとしてサッと通過作品に目を通していたら……なんか見覚えのあるタイトルが! ハイ、そこでようやく思い出しました。で、時すでに遅し。ハヤカワ応募のためカクヨムではもう読むことができなくなっていました。
そんな事情もあり受賞作を購入。何気にカクヨム発の書籍を買うのは初めてでした。単行本高いよ……。
内容については、概要にある通り古典童話をSF化した童話改変SF(……童話改変SFというジャンルをはじめて聞きましたが)。
短編集で、収録タイトルは「地球灰かぶり姫」「竹取戦記」「スノーホワイト/ホワイトアウト」「〈サルベージゃー〉VS甲殻機動隊」「モンティ・ホールころり」「アリとキリギリス」の6編です。
「地球灰かぶり姫」は「シンデレラ」(シンデレラの和名が「灰かぶり姫」だということを今回はじめて知りました)。
「竹取戦記」はご存知「竹取物語」。
「スノーホワイト/ホワイトアウト」は「白雪姫」。
「モンティ・ホールころり」は「おむすびころりん」にモンティ・ホール問題という確率論を混ぜ込んだもの。
「アリとキリギリス」そのまま。
なんですが、「〈サルベージャー〉VS甲殻機動隊」だけは元ネタがわからなかった。かにが登場するから「さるかに合戦」だと思いますが、しかし話が全然違う。そもそも猿出てこないし……。もしかして猿ベージャーってことですか? 謎です。
ちなみにガンマ線バースト(要は恒星の最期。最も強烈な物理現象です)要素ですが、大体オチに使われています。シンデレラでは舞踏会で魔法が解ける場面に、竹取物語ではかぐや姫が月に行く場面に、アリとキリギリスではキリギリスが死ぬ要因に、みたいな。
まあこういう感じで、前半3篇は元ネタに忠実な展開で、後半の作品は元ネタを大胆なアレンジをしています。
この辺りのことは、書籍の最後に掲載されている第6回ハヤカワSFコンテストの選評でも指摘されていましたが、前半3篇はいいが後半3篇になると途端に求心力がなくなる、無理が生じている、という辛口批評が。確かになんとなくそんな気もするけど、でも普通に面白くてそこまで気にはなりませんでした(書籍化に伴い改稿しているので当たり前ですが)。
SFですがあくまで新約童話なので、ストーリー的な意外性というものはありません。古典童話を面白おかしくSFにした、ある種ジョークグッズ的な小説ですので、斬新なSF要素を読んで楽しむタイプの作品だったかと思います。
また、ゴリゴリのこってり濃厚SFであり、科学的な考証も踏まえていますが、意外と設定などの説明が少なく、最早「お約束だからみんなわかるよね?」みたいな感じで、用語の字面でどういうものか察しろと言わんばかりです。まるでなろうテンプレみたいだ。
でもそのSFとしてのお約束をこれでもかと詰め込んで破裂寸前の作品ですから、科学ネタやSFネタに明るいコアなSFファンにはメタ的に楽しめるかと思います。一方その分SFに慣れていない方が読むとさっぱりわけがわからない状態に陥るかもしれません。でもそのわけがわからないくらいに滅茶苦茶にした童話がかえって面白く感じられるかもしれませんね。
タイトルだったり作品概要だったりで一発ネタっぽい雰囲気が出ていますが、でも一発ネタは一発ネタとして、ネタとして読む分には十分な面白さだと思います。それほどまでにぶっ飛んだ個性があっていい作品でした。
個人的にですが、これ別に優秀賞じゃなくて普通に大賞でもよかったのでは? と思います。残念ながら大賞とはなりませんでしたが、でも、受賞おめでとうございます。
と、今回は割と直球なレビュー記事となった戯言でした。
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