代打、かわりまして、代打、代打

ちびまるフォイ

ほら、あなたの後ろにも…代打

「ククク。大陸を冒険する勇者がいると話は聞き及んでいたが、

 貴様程度の人間の人間だとはな。

 我ら、魔王四天王(1人産休)に勝てるとでも?」


「四天王コーザ。お前はまだ知らないかもしれないが

 俺の戦闘力は53万だ。

 お腹の調子が良ければ53万10くらいまであがる」


「ワッハッハ!! 人間よ、それこそ貴様のおろかなところだ。

 我ら四天王の戦闘力はすでに1億を超えている。

 53万? 笑わせる。そんなものなど赤子同然ぞ」


ピピー。


「なんの音だ?」


『勇者、変わりまして、代打:ああああ くん』


急にどこからかアナウンスが流れてくる。

勇者の後ろから、ぴちぴちTシャツで筋肉を強調させた勇者があらわれた。


四天王コーザはぽかんとしている。


「こいつは代打勇者。戦闘力はたぶん……1兆をゆうに超える」


「あああああ、ああああ、ああああ、あああああああ」


「すべての力を戦闘に特化させたため、言葉はしゃべれない」


「ちょ、ちょっと待て! 代打とかってシステムあるの!?」


「いけ、代打勇者! 10万ボルトだ!!」

「あああああああああああーーッ!!!」


ザーコは死んだ。ミス。コーザは死んだ。


四天王の一角を倒した勇者は隙間時間に他の四天王も倒した。

毎回代打勇者を使うので、戦闘もあっという間に終わる。


短編の文字の分量の関係もあり、ついにあと魔王を倒すだけとなった。


「勇者様、すご~~い!」

「本当にお強いんですね!」

「たくましい男の人って憧れますぅ~~!」


「ああああああああ、ああああ」


「「「 キャーー!! 」」」


残り魔王を倒すとまで世界を救った勇者だった。

すでにセーブファイルに表示される進捗率は90%を超える。


勇者の知名度上昇とともに、代打勇者と本家勇者との差は開く一方だった。


「あ、あの、本家の勇者は俺なんだけど……」


「は? 誰だテメェ」

「毎回、代打に任せて隠れてるだけだろ」

「勇者の"勇"の字は、いさましい奴にあてられるんだよ」


「なんだこの差……」


人気ドキュメンタリー番組『プロフェッショナル~勇者の流儀~』にて、

自分の戦いが特集されたときに、代打がバレたのがきっかけで立場逆転。


勇者なのに、まるでマネージャーのような扱いだ。


「でも、そんな勇者さまが私は好きよ」

「ありがとう、死ね」


女わんぱく相撲で10連覇を成し遂げた巨漢の幼馴染:アリアくらいしか

俺に好意という名の被害を能える人はいない。


そして、なんやかんやで魔王との直接対決。


「むっ……なんかやたら広い広間があるぞ、これは最後の戦いになるな……!!」



ピピー。


『勇者、変わりまして、代打:ああああ くん』




代打勇者を先に召集する。

なにせ一番怖いのは、代打勇者を呼ぶ前に即自分がやられるパターン。

こないだ家に帰る途中の草むらのゴブリンに殺されかけたこともある。


「いいか、代打勇者。最近、お前ばかり持ち上げられているから

 最後の勝負はお前が倒さないようにするんだ」


「ああ」


「お前の戦闘力があれば、魔王なんてザコだろ?

 だからギリギリまで体力を削って、調整するくらい簡単なはずだ」


「ああ」


「で、魔王が虫の息になったら、代打の代打で俺が登場する。

 そして魔王を倒して、姫を救出し、城へ戻る。

 姫と結婚してハッピーエンド、というわけだ」


「ああ」


「お前、本当にわかってる?」

「わかってるよ」

「しゃべれんのかよ」


3秒くらいで立て終わる綿密な作戦を練った後で、魔王の玉座の前に向かった。

魔王はゆらめく炎に照らされながら待ち構えていた。


「勇者よ、ここまで来たことと、微分積分のテストで赤点回避できたことは褒めてやろう。

 だが、貴様の旅はここで終わりだ!!」


「待て、魔王!! ひとつ言っておくことがある!!」


「ほう、面白い。死ぬ前に遺言くらい残させてやろう」


「代打勇者、いけ!」


代打勇者は話を聞く体制に入っていた魔王を攻撃して瀕死までワンパンで追い詰めた。


「グアアアアア!!!」


「よくやった! 代打勇者!!」

「ああああああ」


本家勇者はずるずると体を引きずりながら逃げる魔王を倒した。

かくして、世界は平和に包まれ、

魔王城はアミューズメント施設として市民に開放されて

ボーリングやカラオケ、スポッチャなどが楽しめる若者の憩いの場になった。


姫を城に着払いでお届けした勇者は王様にいたく感謝された。


「おお、本家勇者よ、我が娘デスタームアを救ってくれたこと、本当に感謝する」


「いえいえ、これも本家勇者の務めですから。

 魔王を倒したのは、なにを隠そう、わたくし、本家勇者でございます」


「お、おお、そうじゃな」


「代打勇者ではなく、わたくしが倒しました!!」


「わかったって」


やたら自分が倒したことを前のめりでアピールする本家勇者。


魔王が死んだタイミングでキルカメラが本家勇者を映したので、

その言葉に嘘偽りがないことは世界中の誰もが理解していた。


「それでは、約束通り魔王を倒したものに褒美を与えるとしよう」


「ありがとうございます!!」


王様が手を鳴らすと、奥から絶世の美人である姫がしゃなりしゃなりと口づさみながらやってきた。

歩いた足跡からは花が咲いていく。一部ではシシ神様とまであがめられる。


「至らぬ娘であるが、勇者の嫁として君に差しだそう」


「身に余る光栄です!! 二人きりで話してもいいですか?」


「かまわんよ。おい、人払いを」


王様を含め誰もいなくなった王室に、勇者と姫だけが取り残された。


「ああ、姫。なんて美しいんだ。

 君の同人誌を見て世界を救うことを決めて本当に良かった」


「勇者さま、どうか一言だけよろしいでしょうか」


「もちろんさ。一言だけでなく、二言でも三言でも。

 君の透き通ったよく通る声をもっと聴かせておくれ」


姫はにこりと本家勇者に笑いかけると、宣言した。




「姫、変わりまして、代打姫:アリア」



姫の後ろから出てきた代打姫を見て、勇者は慌ててパンツを履いた。

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