ルール説明編04

前回までのThisGame


ゴキブリがどМだとカミングアウト。

部屋に戻るとカナが全裸。




下園カナは異世界人である。彼女が住んでいた世界は外見の美しさが最も重要な世界であり、ある一定の年齢に達したとき美しさが足りていないと処分されるというおそろしい世界だ。


現在その世界は無い。彼女ともう一人の手によって消滅した。


「久しぶり、ノボルくん」


切れ長の瞳、瑞々しく長い黒髪、分厚い唇、白くて透明感のある肌、控えめな胸に高い腰の位置。色気と可愛さを8:2でブレンドした完璧超人。それが僕の婚約者であるカナだ。


最初は隣を歩くのも緊張したものだが、人間は慣れていく生き物だ。僕は生涯を通して彼女より美しい女性には会わないと断言できる。


「いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず、服がしゃべったの」


「なるほど、わからん」


ゴキブリの説明に服が喋る要素があっただろうか(反語)。


「ここにいる少女の説明とどっちが大事だと思う?」


「そうね。とりあえず、私はしゃべる服を着る」


「わかった」


僕とゴキブリはリビングっぽい部屋へ進み、モニターを見る。すると、僕たち3人のキャラクターが映っているが、カナのものは美しい着物姿になっている。


「本物は画面で見るよりきれいね………」


ゴキブリが僕のことをどう思っているのか気になったが何も言わないでおいた。


下園カナは僕たちの世界ではイイトコのお嬢様であり、着物を一人で着ることも可能だったようだ。彼女は自慢げに姿を現すと、モデルのように僕たちの前で舞って見せた。


その着物には7色の羽が無数に刺繍されていて彼女が鳥になったかのようだ。7色といっても輝くわけではなく、その場にしっとりと存在を主張する。ベースの色が白であることも美しさを引き立たせている。


美女と着物の両方が合わさり最強に見える。


「うーん。どうやら二人にはこの子の声が聞こえないみたいね」


そう言ってからお淑やかにソファに腰を掛けた。


ホテル部屋はゴシック調のお洒落な空間なのでカナの純和風のたたずまいが浮いて映る。さらに近くに、魔法少女的な服装のゴキブリもいるし、肌着だけの僕もいる。カオスとしか言いようがない。


「カナ。今日から1年間僕たちはここでゲームをするらしい。彼女はチームメイトのゴキブリだ」


「こんにちは。私はゴキブリ、ギャンブル中毒者。生殖器はついてないから安心して」


「ノボルくん、突っ込みどころが満載なんだけど?」


「ああ。僕も7割が初耳だった」


それから、彼女に僕が知りえた情報をなるべく噛み砕いて説明した。モニター内で戦うこと、現実がモニターに反映されること、戦いが365日間であること、市川のこと。


「うおおお、燃えてきたよノボルくん!」


彼女は結構筋トレとかをして自分を追い込むことが好きなのだ。ゴキブリと共通しているところがあるかもしれない。僕はカナが喜んでいるならそれでいい。


「で、カナ。私たちに支給された1万ダイヤなんだけど……」


「うん。この子が9800ダイヤで、買っちゃった。後悔はしていない」


カナ曰く、いままで見たどの服よりも素晴らしい服らしい。彼女はファッションに対して並々ならぬ情熱を持っている。それは、僕と会うときは同じ服を着ないようにするというものだったが、今はそのようなことを言っている場合ではないだろう。


「え? うん。復活効果? それって強いんじゃないの?」


ゴキブリとカナの会話中にカナが独り言を始めた。仕草からして服と喋っているようだ。演技だとは思いたくない。


「えっと、カナ。とりあえずその着物は何と呼べばいい?」


「プホイって言うらしい」


ニュージーランドの都市の名前、とは関係ないんだろうな、きっと。


「彼はノボル。私の旦那さん。うん。なるほど。ノボルくん、この着物に触るとプホイの声が聞こえるみたいだよ」


僕とゴキブリはプホイの裾をつまむ。必然的に三人は横並びで密着したような感じになる。すると、厳かな男性とも女生徒も思えない声が脳内に響いた。


『我はThisGameのために作られたプホイという物だ。私とカナの魂は近しく、共鳴することが可能だった』


カナと魂が近い……。美しさを極めると物と話せるようになるのかもしれない。


『私への対価は高かったろうが、損はさせない。私のモニター内での能力は、1試合に1度、HPがゼロになったとき、HPが100%の状態で復活するというものだ』


僕にはそのすごさがピンと来なかったが、カナとゴキブリは喜びの声を上げた。


「チートやんけ!」


「これはすごい! 1万ダイヤでも全然安いわ」


『さらに、ゲーム内のシステムは大体網羅している。わからないことがあれば聞け』


モニコン内は見たことのない文字で埋め尽くされているが、それを解読するだけでもなかなか骨のある仕事だろう。それが強いアイテムとセットなら、初期投資としては悪くないのではないか。


「「勝った」」


よくわからないが意気投合している二人。楽しそうに今後の作戦を話し合っているが、いろいろな言語を理解できる僕でも理解できない。


「とりあえず、ゴキブリを前衛にして復活で勝つ感じかしら。リソースは全部注ぎ込む感じで。私たちのスキルを取りたいけど、ランクもダイヤも足りない」


「残ったコインで宝石と強化薬……。ソウルを集めたいけど、現状入手手段がわからない。とりあえず、クエストを進めつつ能力を上げていくしかないか」


二人は密着した状態でモニコンをあーでもないこーでもないといじっている。僕の意見を聞かれることはない。やや悲しい。


「あ、ノボルくんは補助的な役割になると思うから、走り込みでもしてきて。倉庫部屋に水が届いてると思うから、限界までよろしく!」


「あん? ノボルは攻撃だろ? 私のゲージ技が回復な以上、ノボルに火力を持たせないと」


「いえ、ノボルくんは状態異常特化で、スリップダメージを基本に攻めていこうと思う」


「それはダイヤが貯まってからの話だろ? 目先のダイヤを手に入れるために今は攻撃だ!」


「いいえ。ノボルくんには365日走り続けてもらうわ。ゴキブリは筋トレ、私が防御……。防御ってどうやったら上げられるの?」


よくわからないけど、この状況になって1日目からランニングをさせられるとは……。格好も肌着だし、見られたら恥ずかしいな。


「僕の出番はなさそうだし、走ってくるよ。食堂で走ってたら怒られるかな?」


「敵チームに情報を与えたくないから倉庫で走って!」


僕はてっきり、あの自然な絵を見ながら走れると思ったけれどそうではないらしい。まあ人にぶつかったら危ないし、致し方ないか。


「ルームランナーとかないのか?」


「あったけど、今は買えないわ」


元の生活では、お金は彼女の持ち出しで、僕は完全にヒモ状態だった。そのこともあって、僕は反論しようとも思わなかった。


僕はホテル部屋から出て倉庫に向かう。短い通路が三つに分かれていて、食堂とお風呂と倉庫につながっている。倉庫は真っ白の部屋で、広さは6畳ぐらいだろう。一人暮らしには最適かもしれないが、ランニングを行うには狭すぎる。僕はカナに苦情を言いに行く。

 

「せめて、なわとびとか」


「エアなわとびでお願い!」


「………」


結局僕は試行錯誤の末、ダンスを踊ることによって自分のHP上昇に努めた。


つづく

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ボツ小説キャラ総出演!リアル育成シミュバトル! 合戸祐希 @AitoYuuki

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