少年は森を焼く
田中ビリー
【短編】少年は森を焼く
その樹々は切り倒されて、根は土から掘り返された、
指先ほどの小柄な緑は皮を剥ぐよう捲り上げられ捨てられる、
暴君たちが好んだ拷問みたいに、
それを積んだトラックは、森と焼き場を行き来する、
四足歩行は毒を飲まされ、ライフル構えた迷彩服が、
逃げに惑う鳥の走る数秒先を狙ってた、
水色の水が流れてたのに、滲むオイルが赤く粘つく、
溺れた魚の白濁した水晶体、
跡にはビルが建つらしい、
張り巡らせた有刺鉄線、カナリヤたちは泣き続ける、
見る人々は嬉しそう、
〝ここには働く場所がなかったの〟って、
君は僕はそのころまだ少年少女、
君は置き去られていた若い枝を持ち帰る、
陶器のボウルに生き残った命を繋ぐ、
窓から光、きれいな水と、
「いつかはまた森になるんだよ」って君は、
枝は根を張り、小さく芽吹き、
やがては脈打つ緑を一枚つけた、
ボウルは底から割れてしまって、
君はその樹を小さな庭に植えかえた、
君より早く樹は育ち、見上げれば木洩れ陽の季、
庭には小さな森が育った、
小鳥が迷い、蝶が舞い、
見世物小屋の鹿や羊が羨ましげに眺めてた、
君は僕は生まれた森を焼き払った、
鳥が住処を作ってしまう前に、
樹々が森になってしまう前に、
自分が大人になってしまうその前に、
森はやがて同じ途をたどるような気がした、
君が僕が飲み込まれた〝文明〟を、
二度と森に遭わせたくなんてなかっただけなんだ、
少年は森を焼く 田中ビリー @birdmanbilly
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