第三夜

香織の家は郊外の閑静な住宅街にあり、小ぶりな家だが調度品はどれも質が良さそうで、初夏の日差しが差し込む空調の効いた快適な室内で、モフモフした長毛の猫と一緒に和樹の三毛猫は我が物顔でソファーで眠っていた。こうして二人の関係は始まったのだった。


香織は購入した照明器具とカーテンを軽ワゴンに積み込み、ドアを閉めた。腕時計をみると19時を回っている。もう日も暮れて真っ暗だ。早く帰らないと和樹のぼやきが増える。香織は運転席に乗り込み、エンジンをかけた。


沢山のヘッドライトが連なり、都心の環状線は1つの生き物の様に蠢いていた。


香織もその中の1つになって、車を走らせる。バックミラーに光がゆらゆら揺れる。信号待ちで止まった車の助手席から、女の子と犬がちょこん顔を出しているのが見えた。運転しているのはきっとお母さんだろう。


今日はクリスマスだ、大切な人と過ごす人、孤独を噛み締める人、この連なる光のそれぞれに、それぞれの暮らしがあるのだと、ふと香織は思った。


和樹が飼っていたのはオスの三毛猫で、新入社員の頃、営業回りの途中で拾ったそうだ。目やにが酷くてやせ細っていた子猫を和樹は大切に育てた。


会うたびに和樹はその猫がどれだけ大切か、熱っぽく語った。話を聞いてると香織も楽しくなった。そんな風に話す和樹が好きだった。


でも一年前、肝臓を悪くして、体に毒が回って三毛猫は死んでしまった。その後、和樹はふさぎがちになり、結局10年続けた仕事も辞めてしまった。


猫が亡くなったせいなのか、仕事が嫌になったのか、理由は香織には分からない、多分和樹もよく分かってないのだろう。ただ、香織は和樹と一緒に暮らしたかったし、環境が変わればまた気分もよくなるだろうと、面倒臭がる和樹を連れて二人で暮らすマンションを探した。


そして、保護猫の譲渡会で今の黒猫と出会い、家族に迎えることにしたのだった。

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猫と二人の夜に ぴろゆき @iihara4649

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