口裂け女とターゲット 二日目

 黄昏時。人気のない路地で、大きなマスクをつけた女が一人。


 女は獲物ターゲットを探していた。昨日は標的を見誤ったせいで、どえらいものを見せられてしまった。今日はもっと慎重に選ばないと……


 そうして運悪く彼女の目に止ったのは、この近くの学校の制服を着た男子生徒だった。

 女は背後から男子生徒に忍び寄ると、ポンと肩を叩く。そして振り返った彼に、こう問いかけた。


「ねえ、私ってキレイ?」

「……まあ、キレイか?」


 男子生徒は答えた。すると、女の手が自らのマスクへと伸びた。


「これでもー?」


 マスクの下にあった女の口は、耳まで裂けていた。女の素顔を見た男子生徒は、恐怖で動けないのかしばし立ち止まったままだった。が……


「ああっ?何度も言わせるな」


 不機嫌そうに眉間にシワを寄せる男子生徒。そして彼はズンズンと口裂け女に迫る。


「ひい⁉」


 口裂け女はその迫力に圧倒されて思わず後ずさる。しかしすぐに背後にあった塀まで追い詰められ、そして……


 ドン!男子生徒は壁に左手をついて、口裂け女の逃げ道を塞いだ。そして残った右手を彼女の顎に持ってくると、クイっとそれを持ち上げる。


「何度も言わせるな。キレイだっつってんだろ」

「は、はい。そうでした」

「て言うかアンタ、もしかして誘ってるのか?いい唇してんじゃねーか」


 男子生徒が顔を近づける。そして二人の唇が触れようとしたその時……


「ご、ごめんなさーい!私、強引な俺様系って苦手なの—!」


 口裂け女の足はメッチャ早い。本来は獲物を追うために使うその足を活かして、彼女は全力で逃げた。

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