口裂け女とターゲット

無月弟(無月蒼)

口裂け女とターゲット 一日目

 黄昏時。人気のない路地で、大きなマスクをつけた女が一人。


 女は獲物ターゲットを探していた。そうして運悪く彼女の目に止ったのは、茶色いロングコートを着た、サラリーマン風の中年男性だった。

 女は背後から中年男性に忍び寄ると、ポンと肩を叩く。そして振り返った彼に、こう問いかけた。


「ねえ、私ってキレイ?」

「ええと……はい」


 中年男性は少し戸惑いながらも答える。すると、女の手が自らのマスクへと伸びた。


「これでもー?」


 マスクの下にあった女の口は、耳まで裂けていた。数十年前に日本を恐怖させた都市伝説の怪物、口裂け女。それが女の正体である。


 女の素顔を見た中年男性は、恐怖で動けないのかしばし立ち止まったままだった。しかし何を思ったのか、彼はおもむろに自らのコートへと手をかけ、その中を開いてみせた。瞬間――


「キャアアアアアアアァァァァァァァ!」


 辺りに悲鳴が響いた。男の声ではない。口裂け女の悲鳴である。

 男はコートの下に、一切の衣類を身に着けていなかった。早い話が、男は露出狂だったのである。


「嫌―!チカン―!来ないで―‼」


 口裂け女の足はメッチャ早い。本来は獲物を追うために使うその足を活かして、彼女は全力で逃げた。

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