第6話  私の繁殖力は53万です。ですが当時の力は失ってるのでご心配なく……

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私の繁殖力は53万です。ですが当時の力は失ってるのでご心配なく……

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さて、これまで話したとおり、二次創作は

一次創作と絡み合い、創作界隈に深い闇と光をもたらしてきました。

神みたいですね!

行き着く先が神様転生だけに!(激ウマギャグ)


……。




……さて、そんな20年ぐらい前のノリはともかくとして。



筆者はそのスタート地点を、Kanonあたりに定めたわけですが。


前回もいいましたが、あの頃のKanonがもたらしたものは、ハーレムやオリ主などの

現代アイディア郡の種だけではなく、まだありました!


まだあるのか……




と心の声が聞こえてきそうですが。



ありました。


その名も。





『テンプレ作家量産文化』です!





さて、テンプレート……


いいふうにいえば


   『お約束や王道』


悪いふうにいえば


  『流行ネタのパクリの集合体』です。



なんというか、人気作と、同じようなキャラ、同じようなネタ、同じようなストーリーで、作品を作ってしまう。

でも、流行に乗っかってるので、そこそこ人気でちゃう。

それをみて、また真似する人が続出しちゃう。



つまり、



『書きやすそうな面白い作品をみて、特に深く調べずそのコピーを作り、

 そんな作者が大量に湧き出ることで、テンプレとなり。

 そのテンプレ作品を見ただけで、自分も書けると思い、

 テンプレ作品を参考にテンプレコピー作品を書く作者が表れ、

 そのテンプレコピー作品を元にまたテンプレコピーのコピー作品を書くやつが現れ、

 そのテンプレコピーコピー作品を元に……』という、今も続く無限ループ文化。



今も議論の的になる、この『テンプレ文化』



なろうの成功要因の8割がここにあるともいえるし、批判の8割もやはりここにあります。



人によっては、今も大いに忌み嫌い、このせいで小説は衰退した!

あるいは、これから衰退するのだ!と言い切る文化。



その今も続く、テンプレ文化!

その発端がまさに、Kanonから生み出されていたのですね。




二次創作界隈を今も揺るがす


『ある文化』によって!!!


つまり『テンプレ文化の元となった文化』というのがあったのです。


よって次はその歴史と是非を語りましょう!








……と言いたいですが、その前に。







……その前に、ここまできた人は、ある疑問が浮んでるんじゃないんでしょうか?




「つーかなんでそんな、いちエロゲーが、多大な影響力を?」




その質問、YESだね!

まことにもっともな疑問です。まーべらす!




そう、そもそも、いくらレジェンド作品とはいえ。所詮は1エロゲ。

いくらその界隈では人気といえど、PCエロゲの市場規模などたかが知れてます。



巨大社会現象を引き起こしたエヴァのシンジくんなどに比べたら、Kanonの祐一くんは超ウルトラどマイナー。

知名度でも経済規模でも、象とアリンコぐらい差があるでしょう。

なのに、今もU-1と揶揄され、魔改造主人公の代表として扱われ

スパシンを超えるほどの存在感を放ち、黒歴史を量産し

当時の作家の記憶を聞くと「うっ……何故か頭に頭痛と痛みが!」となってしまうのはなぜでしょう?




答えは簡単。エヴァ二次に匹敵し、いや押し返すほどKanon二次が『量産』されていたからです。



ちなみに、どのくらい『量産』されていたんでしょう?



それは


  5000


という数字で表せるでしょう。


この数字は何か?というと……。



Kanonのメインヒロイン、名雪(なゆき)の、SSの数です。



 その数『5000件』



最低値で。これ以上ありました。


桁を間違えてる?いいえ、間違えてません。

全盛期はそんぐらいあったんです。マジで。

Kanonトータルで数千、数万のSSがね。

もっとも、現在主流な長編主体ではなく、短中編が主体ではありましたが。

ここまでの作品は二度とでないかもしれない。



大多数はもう消えていったので、裏が取りにくいのが残念ですけどね。



ああ、ネットは永久に残るなんて嘘ですよ。

ネットは普通にサービス終了や個人が消したらガッツリまるごと消えます。

資料として残すのは逆に難しいんです。残るのは儚い記憶だけ……。

今残ってるデータから、Kanon全盛期のデータを探ろうとしても

名雪SSで、全盛期は200件!とか、的はずれなデータとデマが出そうですね。



だから、筆者は残そうと思ったんです。

記憶のあるうちに。記録に残らない「ネットの流れと空気」という記録を。



話がそれました^^


まあ、とにかくKanonが山ほど量産されたという話でしたね


ではなぜ、そんなにもKanon二次が特別に『量産』されたのか?



エヴァやその他メジャーゲーム、漫画をさしおいて?

PCエロゲというクソニッチジャンルが?

知名度でいったら1:100ぐらいの差がでそうなやつが?




そう、それにはれっきとした理由があります。



というわけで、


テンプレ作家量産文化につながる、『ある文化』の説明の前に、まずはそれを辿っていきましょう!

大丈夫、遠回りではありません。



『Kanon量産の理由』を知ることこそ、テンプレ文化の理解に直結していくのですから。




さて、Kanonが量産された、その理由は主に3つあったと思います。





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理由1:インターネット黎明期との重なりー作者の大幅増加

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Kanon二次やエヴァ二次が流行った2000年前後というのは、日本にネットが普及した頃とちょうど重なります。

1998年の頃の普及率は14%。全くありませんね!

ここからたった4年後の2002年に、普及率は58%まで爆撃上昇。翌年には64%まで!

あっと言う間に過半数を超えます。

従量制のダイヤルアップ電話回線から、定額制のISDNに変わったのが大きいですね。

昔はネットに繋ぐ時間が長いほど、お金が跳ね上がったのさ。

それが、ネットに常時つながっているのが「普通」の時代がきたのです。



それまでは「創作物」といえば、プロの商業のもののみをさしました。

オタクイベントなどでしかお目にかかる事のなかった「素人創作物」などは幻の品。

存在すら知らない人が多かったのです。

それが、ネットで一気に「素人創作物」が、一般人の手に届くようになりました。

プロと違って無料で楽しめますし、場所も取らないので、ハードルは当然低かったです。



しかし、今と違い回線速度は貧弱で、ツールも貧弱!


転送容量が、ゴミのように少ない!



どのくらい貧弱かというと、絵を一枚表示するのに、3分かかり。

挙句の果てにエラーがおきて表示されない。というような時代です。

エロいjpg一枚DLするのに3分!うーんこれは苦行(笑


そもそも絵はドットで打ったりしてる人もいて作るのも大変でした。

ツールも高かったしねえ。

検索するための、Yahooのトップ画面が表示されないなんてのもザラでした。


シンプルな画面のGoogleが出た時、神かよ!って使い倒したもんです

この頃はドマイナーでしたねえ。グーグル。

ネット検索は、Yahoo、MSN、gooの3強だったかな。



そう、動画や漫画、CGで創作表現なんて、夢のまた夢……という時代です。

スマホもない。カメラもない。ペンタブもない。

PixivもYoutubeもありません。

しかし、いつの時代も「作りたい!」と思う人はいるもの。


彼らのエネルギーはどこに向かったか……?



そう、文字だけで成り立ち、貧弱な回線でも送受信できる……


「小説」という分野に、創作エナジーが集中したのです。

あるいはテキストサイトですかね。侍魂とか。ちゆ12歳とか。



また、受け取り手も、小説やテキストサイトしかなかったので、大いにそれを消費し、楽しみました。



つまりネットの黎明期と相まって、創作者が大量に出た時期と完璧に重なった。

また、娯楽の作品や回転も遅い時期でしたので。

一度流行ると廃れるまでに長く時間がかかりました。



これがKanon大躍進の1つ目の理由です。

ネットに流行るタイミングがとても良かった。

もしこれが5年速くても5年遅くても、別の作品に取って代わられていたでしょう。


また、ネット黎明期でなくては、小説にここまで人が集まることもなかったかもしれません。

そして色んな人が、小説の魅力にWebを通じて取り込まれました。

実際、今、なろうのメイン客層……というか執筆層には、この頃青少年だった人も多いのです。


この時、今ぐらいに創作ツールが揃ってたら小説家になってない人も多いかもしれませんね!

人生とはタイミングです。



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理由2:『萌え』に飢えてた!

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これはかなり大事な視点です。


Kanon二次が流行った理由を知るためには、まず当時の時代背景を知らねばなりません。



小説に創作エナジーが集中した……

でも、それは小説が賑わう理由にはなっても、小説の中で題材として「Kanonが選ばれる理由」には足りませんからね。

そこで!この視点が大事になります。



まずこの2000年台前後を振り返るに、今の人にはかなーり意外であろう話をしましょう。

ネットの歴史帳的な意味もかねてね!


 ※このエッセイはラノベの歴史メモも兼ねています。真面目!

 


実は……


2004年ぐらいまでは……




ラノベ市場に『萌え特化ラノベ』はほぼありませんでした!


……


ラノベ市場に『萌え特化ラノベ』はほぼありませんでした!



大事なことなので二度いいました。



本当に大事なのでもう一度いいましょう。



ラノベには『萌え』がなかったのです。いや、マジな話。

ラノベにないぐらいだから一般小説にも当然ないですよ。



今、ラノベ=萌え、みたいに揶揄されてる現状からすると、マジ考えられませんね!?

でも、本当になかったんです。近年になり「ラノベはずっと萌えばっかだよな」とかいう奴をみて「何いってんだこいつ」と思ったものです。


あかほりがいただろ!っていうかもしれないですが、彼のは「萌え」ではなく「お色気」なので違います(伝わってくれ)。

そもそも時代がずれてるし。いい加減古かった。ちょうどそういうものの、空白期間だったのです。



「まぶらほ」という作品ぐらいしかなかったと思います。女の子数人が学園を舞台に主人公を取り合う話です。

しかし、あれは中盤以降、萌えラノベの皮をかぶった暴力的なキシャーなナニカなので、需要は全く満たせなかったんですね。

1巻の頃はまともに萌えラノベやってたんだけどなあ……。どうしてああなった。後は阿智太郎ぐらい?でもやっぱ需要には全然足りなかったんですよ。



というわけで、当時『萌えラノベだせよ!』と、2000年ぐらいからずーっと思ってたのを覚えてますし、2004年に電撃文庫から「乃木坂春香の秘密」という『萌えるための小説』が出たときは「そーそー、こういうのでいいんだよ、こういうので」「でもおせーよ!」と思ったのを覚えています。この小説は出来としては普通でしたが、市場がライバル不在だったので、まあいい感じに売れました。筆者も萌え成分の補充の恩恵に預かりました。ありがとう。


次いでMF文庫が登場し、萌え特化したとき「やっとか!」とも感じました。つまりそれまではなかった。飢えてたのです!読者は、萌に。ちなみにゼロ魔も2004年です。

この後はですね。完全に萌えのブルーオーシャン(ライバル不在市場)で、とりあえず萌え特化なら売れた。何でも売れました。何故なら、市場は「萌え」に飢えてたから。そんで萌え特化のMF文庫は爆進しました。


意外かもですけど、ラノベの覇者である電撃文庫はこの分野に出遅れてました。電撃文庫は結構、いい意味でも悪い意味でも、なんでもやってたので。燃えも萌えも均等にやってました。


そして、あっと言う間に広まった反面、あっと言う間に、レッドオーシャン(競争激化)市場になり、今の知るラノベ=萌えイメージになりました。


2010年ごろには今の『なんでもかんでも異世界転生かよ!』みたく『何でもかんでも萌えばっかかよ!』と批判されていました。


時代は繰り返す。


ちなみにその間や後に『なんでもかんでも学園かよ!』や『なんでもかんでも日常ものかよ!』が入り、萌え以前は『なんでもかんでもファンタジーかよ!』です。次の『なんでもかんでも』はなんでしょうね。こう見てると流行りや歴史は動きまくってるのは一目瞭然なんですが。


ま、いいでしょう。

んで、結構、電撃は萌えばっかだ!とか言う人いますけど、歴史辿ったら全然そんなことないですよ。むしろ手ぬるいぐらいです。


というわけで、この頃の年代は、ラノベに『萌え』はなかったのです。当然ですが一般小説にもありません。

しかし、潜在需要はてんこ盛りでした。可愛い女の子とキャッキャしたいという欲望が、ない時代なんてあるわけないよなあ!ってことです。



可愛い女の子とキャッキャしたい……!



ではその欲ぼ……需要はどこに向かったか?



もうおわかりですね?



そう!ネット小説にむかいました!


特に、エヴァ、Kanon二次などに端を発する、二次創作郡です。


あ、補足するとこの時期は、一次創作でも純愛やラブコメがけっこー人気でしたよ!今よりも断然。

でも、二次創作のほうがお手軽なんで、二次のほうが圧倒的に強かったですけどね!

一次より二次のほうが作るの楽なのは、言わなくても大丈夫ですよね?



「萌え」は一般市場にはなかった!でもだからどうしたって話ですよ!

「市場にねえなら!プロがやらねえなら!俺が書いてやるよ!俺のためにな!」といわんばかりで、ネットには『萌え』作品が山のように溢れました。無ければ自分で作る。需要の自給自足。これが作家の心意気。


ちなみに、二次創作というのは作家の入口として存在的に非常に大事です。何故なら楽だから。キャラと世界観と、なんならストーリーもある程度用意されてるので、初心者が入り口として非常に入りやすいんですね。


二次創作から入った一次創作作家というのは無数にいます。そこでプロの流れを理解し、腕を磨くんですね。読者の反応も良くて楽しいし。

創作の喜びを二次で知るわけです。筆者も二次から入ったくちです。


二次で手軽にかいて、ウケる喜び。創作の喜びを知り、読者からの反応が来る楽しさを知り、そして一次創作にやがては移っていくのです。美しい流れですねえ。


筆者は、初心者は二次創作などから入ることを割とマジで強くおすすめしますよ。

読者もよほどのキャラ違いとかしないなら大体優しいしね。



 ※関係ないけど、逆にこの時期(正確にはもう少し先)、音楽方面もそういう活動があって、MIDI製作ブームが起こりかけていたんですが。ジャスラックさんが元気に潰して周ったので、入り口たる二次創作音楽家が全滅。一次創作者しか残りませんでした、というか曲のみの一次創作なんてほぼ需要がないので、ガンガン音楽系HPが閉鎖され、ほぼ全滅しました。ニコ動と初音ミクがでるまで、草の根音楽創作文化は死んでましたね!まあそんな感じで、同じ創作界隈として、戦々恐々としていたものです。二次創作作家は、公的権力に弱いのじゃ。アニメも、昔MADが元気でしたけど、今はほぼ死んでますね。二次創作界隈が元気に活動してる、小説や漫画が特別なんかもしれません。懐の広い業界に深く感謝だぜ!



さて、そんな隣の焼かれた芝生はさておきましょう。



市場の萌えに飢えてた人々が、二次創作を起点に、創作に走った。ということでしたね。



これはある意味で『ネットが市場の流行りを先取りして満たしてた』……ともいえます。この『ネットが市場の流行を先取りする』現象は、当時からずーっと、今も続いています。


というか、今ではネットの流行そのものが書籍化して、市場を食い荒らしてますね。『転スラコミック』は中堅ジャンプコミックスより売れてるらしいですよ?凄いですねえ。

なろう小説のコミカライズは全然珍しくないし……売れまくってますしね。


まあ、文章なんて特別な技能いりませんし。ジャンルや嗜好があえば、ガバ文章でも受けるのが小説ですから。

健全青少年にとっては、美しい日本語で書かれたBL(ボーイズラブ)より、雑な言葉で書かれた俺TUEEハーレムなんでね。


当たり前ですね!(断言)



ちなみに『雨の日に生まれたレイン』や『魔法科高校の劣等生』や『ソードアートオンライン』など、いわゆる『俺TUEEE系作品の大人気作』も、この時代あたりにネットから生まれてますので、この『ネット流行先取り説』を裏付けるものになってるでしょう(劣等生はこの中じゃ新し目だけど)。


まあとにかく。

そういうわけで『萌え』に飢えに飢えていた人たちがいた!

その人たちが、二次創作界隈に殺到した!



『萌え』(可愛い女の子とイチャイチャしたい)に対する圧倒的需要!!



……これが、第ニの理由です。

無数の萌え二次作品が生まれました。



以前いったように、YOKOSHIMAくんの妖怪ハーレム物語があり。

エヴァは、アスカのラブコメを愛するLAS(ラブラブ・アスカ・シンジ)と、レイのラブコメを愛するLRS(ラブラブ・レイ・シンジ)の勢力争いの真っ只中にあり。筆者はLARSという平和的発想に早々に目覚め。


ナデシコはとりあえずルリと仲良くなり。バカばっかといわれて喜び。

ときメモなんかの二次も流行り、「主人 公(ぬしびと こう)」君が大活躍し。

ピアキャロットへようこそという、今となっては知る人ぞ知るエロゲーの二次も流行り。

Kanonの一歩手前のテキストゲー。ToHeartなんかの二次も流行り。

今はFGOで有名な、TYPEMOONの処女作。月姫なんかも隆盛を誇り。

そして勿論、Kanonもありました。



なんでこんなエロゲー率が高いのかって?

貴方、初めてネット手にした青少年が何を求めると思ってるんですか?

この時代の夜のオトモは、雑誌や本やビデオ(DVDにあらず)しかないんですよ?

動画?jpgがDLに数分かかる時代に何いってんすか。



とにかく、萌え二次はさながら、ドラえもんのグルメテーブルかけを手に入れたピラニアのごとく、ひたすら素人創作家のなかで欲望のままに大量に生み出され消費されていきました。




次は、さらにその『萌え需要争奪戦』の多数の作品の中で、Kanonが特に選ばれ、量産された理由を語りましょう。






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理由3:半端なく『書きやすい』原作の属性!

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そう、これこそが『Kanon』が特別に爆発的に量産された最後の理由!


勿論、前にいった理由もあります。不幸で、可愛いヒロインが多いから、という理由。


Kanonは、その強烈なエピソードで、ファンが多く。

あるいは、原作が不幸で、幸せにしたくなるヒロインが多く。

元々がエロゲーなので、萌え需要を大いに満たしてた。


火のつく要素は最高にあった!


それもあります。



ですが、それ以上に!



Kanonは、そう、圧倒的に二次作家にとって『超書きやすかった』のです。

他のどの作品よりも!知名度の差を簡単に覆せるほどに!


何度言っても足りません。

創作界隈で流行るには、読者の需要だけでは足りません。

「作者の需要」がないといけないのです。

これは何度もいってますが、繰り返してまたいいます。


書きやすさ大事!書きにくいのはたとえ読者にウケても流行らない!

作者にウケないから!



そして。


『Kanonは超・超・超!!!書きやすかった』


 だから!爆発したんです。




さて、これにより、マイナージャンルながらも、一大メジャーに躍り出たわけです。


では、その書きやすかった理由を、さらに4つほどにわけて見ましょう




  ◆理由3−1:

ストーリーが書きやすい!◆



Kanonはエロゲーですが、完結してます。


主人公祐一くんは、高校2年の時に、子供の頃いた街に転校してきた所から話がはじまり、なんやかんやで数週間か数ヶ月で物語が終わります。短い。


凄く美しく感動的な物語が山盛りです。筆者は最初プレイした時、涙腺がダバダバ壊れました。昔すぎてストーリーの細部は忘れてしまいましたが、ひたすらダバダバしてたことだけは鮮烈に覚えています。特に真琴とあゆはやばかったな……。まともにプレイできなかった。

では、そんな話だと凄く介入は難しいんでは?ストーリーが書きやすいとは一体?そう思うかもしれません。


でも、それは簡単です。


まずこの当時流行ったタイプは2つあり、1つは「原作なぞり」。


言葉通り、原作をなぞって進行します。ストーリーは元々あるわけだから、原作を持ってればそこまで難しくはありませんね。後は、原作にないハーレムエンドを作るなり、自分が見たかったキャラ同士のからみや、イベントをいれるなりで、楽しむわけです。これは二次ならば、どんな作品でも鉄板中の鉄板ですね。

そして、Kanonのストーリーは、感動的ではあるものの、難解なところはそんなにありませんでした。ぼかしてあるところは、大体奇跡とかで片がついたり。膨大な裏ストーリーや設定を把握しないと……ってことはあんまりないのです。



そしてもう1つのタイプは「アフターもの」。


アフターものとは、原作終了後の世界を書いたものをいいます。つまり、既にハッピーエーンド!

ヒロインと恋人とかになった状態からスタートというわけです。しかも、学生生活の時間も余りまくってるので、なんでもできますね!ストーリーが書きやすいとはそういう意味です。



翻るに、エヴァはどうでしょう?

原作前……も難しいし(ヒロイン誰も出ないし)、原作中の改変も難しいし、原作アフターなんて壊滅してますね。そういうわけです。

そもそもストーリーが難解で、原作読者に批判されないように、と思っても知り尽くすのが難しい。見えてる舞台の裏でいろんな人がこっそり動いてますしね。知識なしでは、下手に人を動かせない。


そこにいたって、Kanonは簡単なわけですね。アフターを書けばほぼ問題ないから。(そのヒロインとの生活だけに集中するなら)待ってるのは平和な学園生活のみです。


◯◯ENDの後です!なんて前書きがよくあったものです。中には、ハーレムENDのあとです!なんてものもありました!


って、原作Kanonに全員を救うENDなんてねえけどな!


ってのは、何度か筆者が説明したとおりですね(怒)

救えるのは1人だけだから、二次のハーレムが流行ったんだろ!


まあとりあえず、原作完結後に「特に知識なくても自由に書ける余白がたくさんある作品」だったってのは事実で、書きやすかったのです。




  ◆理由3−2:主人公の設定をいじりやすい!◆



主人公祐一君は、一応の個性はあるものの、基本的には無個性に近く、やはりギャルゲーキャラちっくな、読者が感情移入しやすい平凡なキャラです。

そして、転校生という設定と、親が海外にいて不在という、今も通じる、名探偵コナンも大好きな便利設定により、過去改変がかなり自由にききます。

変な能力もないし、血の宿命だとか、運命だとか、そういうのもありません。


個性が弱い、ということは、逆にいうと弄っても原作矛盾が起きづらいし、余り文句言われないということ……!

ま、多少性格変わっても「性格は多少変わってます」とか前書きに書いておけばいいんです。

やっぱり、なんだかんだいって個性の強い主人公は、変えると反発も大きいんですね。エロもギャグもない横島とか。


こうして、魔改造主人公の外堀も内堀も埋まっていきました。

性格どころか、見た目が銀髪オッドアイになってたのはご愛嬌……なのか?



  ◆理由3−3:舞台設定がシンプル!◆



Kanonの舞台は現代の学園日常ものです。つまり、舞台や世界観に関し、特別な下調べや専門知識はいりません。

正確には、多少世界観はファンタジーが混ざってるんですが、原作完結後にしてしまえば、それもどうとでもなります。

エヴァ、GS美神、ナデシコや月姫などと違うのはここで、皆が持つであろう現代学校知識さえあれば、ほぼ原作矛盾を起こすことなくかけるんですね。

多少のファンタジー要素は、無視するか、逆に『好き勝手になんでもやれる』という舞台改変の加速装置にすらなりました。


これは他の作品にはない強みです。特にエヴァと月姫あたりは、設定無視するとめっちゃ荒れやすかったからね……。

下調べや、専門知識が必要になってくる分野は素人界隈じゃ流行りづらいですよね。SFとかSFとかSFとか。



  ◆理由3−4:ヒロインら周辺キャラのキャラ付けが簡単!◆



キャラ付け……キャラの個性です。

大事ですよね。


キャラ付けをすること自体は別にKanonが初でもないしオリジナルでもないんですが。

「やりすぎたキャラ付け」という意味では、Kanonが初めてかもしれません。

そう、Kanonのキャラ付けは、徹底していました。

例を出しましょう。



左がキャラ名、右が口調や好物です。


名雪(なゆき)、真琴(まこと)、栞(しおり)、久瀬(くぜ)とよみます。


名雪……だおー、ねぼすけ、ケロちゃん、イチゴサンデー

あゆ……ボク、うぐぅ〜、たいやき、突進

真琴……あぅーっ、肉まん

栞 ……そんなこと言う人嫌いです、冗談です、アイス

舞 ……嫌いじゃない、無口、牛丼

秋子さん……了承、あらあら、謎ジャム

斎藤、久瀬……やられ役。男モブ。



ざっとこんな感じです。

まあ、こういう口癖や好物でキャラ付けするのはよくあることですよね……。


いや、待ってください!それは、今の時代の視点だからいえること!!!


Kanonはこれを、ヒロイン『全員』にそれを行ったのです。一部のキャラだけではなく。

しかも、ことあるごとに特徴を出したのです!



ときメモとか流行りましたが、全員の好物や口癖がいえますか?大半言えないでしょう。


何故か?


そもそも、そこまで強烈にアピールしてないからです。

というか、口調や好物以外で、人間的なキャラわけをしてたからです。それが普通です。


しかし、Kanonのキャラ付けは徹底してました。全員が。

あゆは、しょっちゅう「うぐぅ〜」いうし、たい焼き食うし。名雪は「だおだお」いうし。いつも寝起きだし。

真琴はあぅーして肉まんをねだり、栞は真冬でもアイス食うし。舞は無口で牛丼で。秋子さんは了承しながら謎ジャムだすし。

この理解だけで、貴方も今日からKanonSSが書けてしまうかもしれません。


ゲーム的、ラノベ的なキャラわけというか。


キャラの記号化、が、すごくわかりやすかったんですね。


この「やりすぎるくらいのキャラ付け」をKanonはヒロイン全員に『徹底』してたのです。


今でも続くこの流れは、これはToHeartか、さもなくばKanonがほぼ起点だと思います。

作ったというか、広めたというかって意味で。



そしてさらに!

二次創作文化には、キャラの記号化をより強めるという、実にはた迷惑な文化があります。

例えば↓みたいな感じ。


 ・女の子同士で熱い友情を感じる→男に興味ないクレイジーガチレズキャラ

 ・カレーが好きという→ありとあらゆる状況でカレーを食し、カレーのためなら人をも殺すカレーキチガイ

 ・怪人組織のせいだと看破する→なんでもゴルゴムのせいにする、などなど


よくありますよね!

もしかして逆に嫌いなのでは?(素朴な感想)



まあ、文章のみでキャラをかき分けるのは結構大変なので、こういう極端な特徴が好まれやすいんですね。

語尾とか口癖とか一切なしで、6人ぐらいが同時に会話すると、誰が誰やらかき分けるのは大変なのです!


二次作家の99%は『単なる素人である』ことを忘れてはいけません。

場合によっては、処女作を書こうとしてる素人、です。高度なことはできません!したくもない!



わかりやすくて、簡単なものは書く方にも読む方にも好まれるのです!

ギャグ的な作品と混ざりあった結果、そういう認知が広がるせいもありますけど。



とにかく、そういう文化が二次創作にはあるのです。

でも、こういう極端なキャラ付けは、キャラの個性付けとしてとても分かりやすいので、今では一次創作にも広がってるザウルス。

流石にあれはやりすぎだと思ったドン


その上、前も少し話しましたが、腕のいい二次創作者というのは、もはやオリジナルとよべるような書き方……、原作未読でも読めるような、親切さでもって書きます。

そんな作者たちが、Kanonを扱う……するとぉ!



 1.原作の時点で、分かりやすい記号化の強いキャラたちが!

 2.二次創作文化によって、その記号化がさらにとんがり!

 3.腕のいい作者によって、未見読者にもわかるように書かれる!



という、キャラの分かりやすさの加速!加速!大加速!が起きるのです!


そうすると、どんな作品ができるのか!?


ぶっちゃけ、質の高い(そしてアクの強い)小説を見たら、原作を全く知らない人でも、すぐに、キャラと立ち位置を理解し、読んでしまえるばかりか、なんなら書き出せるのではないかと思う位の作品ができるんザウルス。



そう……。『原作を知らない人でも分かる』のです。



そしてあえて乱暴にいいますが、小説というのは、分かりやすい世界観と、良いキャラがいればすぐ出来ます。

漫画でも小説論でも「面白い作品を書くのに一番大事なのはキャラ!」と力説してる人が、トッププロに無数にいます。多分最大勢力です。


二次キャラだけを集めて、バトルロワイヤルさせる、バトロワならぬ『パロロワ』というジャンルが確立してるぐらいです(二次の中でも結構コアな文化です)。


そう、魅力的なキャラがいれば、作品は書けるし、書きたいと思ってしまうのです。それが作者の性です。



ではそこに、以下の要素が加わるとどうなるか。


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理由3−1.原作に囚われない、知らなくてもかける「アフター」というストーリー

理由3−2.原作の主人公を好きに改変できる、無個性気味で過去も不明な主人公

理由3−3.原作の舞台や世界観を知らなくても書ける、

     現代学園世界観+多少のイジリを受け付けるファンタジー要素

理由3−4.強烈な記号化を施された、分かりやすい周囲のキャラやヒロインたち

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中々不穏な単語が並びましたね……


そしてその危惧にもれず『ある文化』を作り出します。




その結果起こったこと、それは……。





『原作やったことないけど、二次書いちゃえ』文化です。






ワードだけで闇を感じて仕方ないですね!




しかし、これが、Kanonをエヴァをも超える

数万件のSSを生み出し、二次創作界の頂点へと立たせた理由なのです!





さあ!現在の『テンプレ作家量産文化』に大分近づいてきましたよ!




なろうが何故成功したか?

ここを知らずして語れない!




オラァワクワクしてきたぜ!




続く!



———————————————

この時期の人気ラブコメというと、れでぃっしゅとか

SnowDropsとか俺の名前を読んでくれとかがあります。懐かしい。

詐騎士はもう少し後の時期だったかな。

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