ドラマチック先輩

通 行人(とおり ゆきひと)

ドラマチックな先輩と平凡な私

 私の名前は田中 直子。25歳、女性、乙女座のA型、携帯ショップで働く、ごく普通の会社員だ。

 私の職場には変わった先輩がいる。名前は土羅間どらま きずくさん、30歳、男性、蟹座のAB型。


 この人のとても変わっている所は……とにかく、映画とかドラマとかアニメに出てくるような、『ドラマチックな台詞』を言いたがるのだ。


 例えば、私達の職場では、お昼休憩を順番に回しているのだが、ケータイショップという仕事柄、自分の休憩の順番が回ってきた時に、お客様の対応中という事もよくある。

 そういう時は、インカムを使って小声で『対応中です』とか『お先にどうぞ』と言って、次の人に順番を譲るのだが、この人ときたら……


『お……俺に構うな、先に行けッッッ!! 後で……必ず俺も行く!!』

『あ、ハイ。じゃあ先に休憩頂きます』


 電車の人身事故で同期の田中君の出勤が遅れた時も……


「田中の奴、来るの遅いな……まさか刺客に襲われたかっ!?」

「いえ、人身事故で電車止まってるだけです」


 インフルエンザで後輩のなっちゃんが病欠した時も……


「フン、清水がやられたか……だが奴は四天王最弱!!」

「なんですか四天王って、意味が分かりません」


 連日の暑さでヘロヘロになりながら出勤して「暑い〜、死にそう〜」と私がボヤいた時も……


「お前は俺が絶対に死なせない!! だから……諦めるなッッッ!! 生きろッッッ!!」

「……朝から元気ですね。暑苦しいんでやめてもらっていいですか」


 私が仕事中に突然体調を崩して帰る事になった時も……


「……ここは俺達で食い止める。お前は行け、振り返らずに」

「すみません……病院に行ってきます」


 と、まぁ一事が万事この調子なのである。本人曰く、『いつか本当に劇的な出来事が起きた時の練習』なのだそうだが……


 とにかく、今日という今日は先輩にガツンと言ってやるのだ!!


 閉店後、私は先輩を休憩室に呼び出した。


「あの、先輩……」

「待て」


 先輩はわたしの言葉を遮ると、おもむろに天井に視線をやったり、ブラインド越しに外を見たりした。


「……スパイはいないようだ」

「はぁ……いるわけないじゃないですか」

「で、何だ用って……殺しの依頼なら他を当たってくれ」

「言いたいだけでしょ、ソレ」


 この人のペースに巻き込まれてはダメだ。私は単刀直入に言った。


「私……先輩の事が好きです!! お付き合いしてくれませんか!?」


「ほ、ホァタァァァァァァァァッ!?」


「いや、何なんですか、その奇声は!?」

「い、いや……ごめん。あまりにも予想外過ぎて……思わず奇声が」

「こういう時こそドラマチックな台詞を言って下さいよ、もう!!」

「え、ええーと…………はい、付き合いまし」

「噛んでます」



 ダメだコリャ……プロポーズに期待するとしよう。


 



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