Track7:非国民的ヒーロー-5
さっきの煙のような輪郭をした超大型巨人が、工事中の下北沢駅を見下ろすように、こちらを見ていた。
今再びの威圧感に思わす少しだけ身じろぐおれだったが、不思議とさっきのようなパニック感はなかった。そりゃそうだ、ここは精神と時のシモキタ、キヨスミとおれの思念が入り混じった亜空間なのだから、何がどう召喚されてもおかしくはない。
それよりも、そいつの顔面がさっきとちょっと違う事が気になった。さっきまで百々目鬼かってぐらいびっしりと敷き詰められていた目玉が、本来生物の眼窩があるべき部分にしかなくなっている。
大きな両の目を見開いてこっちを見ている巨人は、その乾燥して目ヤニだらけの下まぶたに涙を沢山溜めたまま、ぶるぶると小刻みに震えていた。デケエ図体のくせして、病気のチワワかよ。
チワワ野郎の巨体を眺めていたら、何故かふいに、次おれが取るべき行動がなんとなくわかったような気がした。何の根拠もなかったが、突然、まるで何かに取り憑かれたようにおれは少しだけ来た道を戻り、また走り出した。
標的との間の距離はおそらく五十メートル程、しかし奴の弱点っぽい額辺りまでは多分百メートルぐらいはある。小学生の頃よく地元のスポーツセンターでトランポリンをやったが、もしもここにトランポリンを持ってきたところで百メートルは流石に跳躍不可能だろう。
しかし、この時のおれは何故か飛べるような気がしていた。
根拠など勿論皆無。失敗したらそれこそこの
何故かとても身体が軽い。物心ついた頃から肥満と言う程ではないが若干太り気味だったおれにしては肉体の存在感がなさすぎる。十キロ以上は痩せたような感じがする。しかも、足の裏にはロケットエンジンがくっついてでもいるのかと思う程、ヤッコさんとの距離をぐんぐん詰めているのがわかる。
空中でおれは右足を後ろへ引き、右拳を胸の下に構えた。左の拳はウルトラマンよろしく前へ。正拳突きの姿勢だ。まるでおれを受け止めようとするかのようにこちらを見上げる黒い大きな影。空気抵抗を受けて突き出した拳の周りを包むように白い煙が上がる。手のひらに爪が刺さって痛い。熱い。全身が火の玉になったみたいだ。
射程距離に敵が入る。風圧で眼鏡が吹っ飛びそうだ。おれは細めていた目を見開いた。ゴミが次々眼球に飛び込んでくるが、知った事か!
前髪が
拳が発する煙が、一瞬光に変わった。消えかけの線香花火のような火花みたいな赤い光を放つ拳と掠れた威声が巨人の額を貫く寸前、おれは見た。
――――大粒の涙を零す巨人の、お台場のテレビ局のビルに挟まっている球体よりも
その全てが、毎朝鏡越しに見つめ合っている、見飽きる程に見慣れた姿に変わっているのを。
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