第12話 自傷

「お父様! しっかりしてください!」


 昔の話だ。

 ある日、父親が殺された。

 朝起きて食卓に向かった先で、血を吐いて倒れている父親の姿を今でも覚えている。

 母親が死んだような目で空を見上げ、わたくしは冷たくなった父親をただずっと見つめていた。

 わたくしの人生が狂ったのはこの日からだ。


=====


「おい! あの娘はどこにいる!?」

「さぁな? もうとっくにここから逃げ出したのかもな」

「ちっ、今日は引き上げだ!」


 屈強な男たちが屋敷から立ち去る。

 かなり荒らされたが、早めに立ち去ってくれただけ今日はマシだ。


「ひっく……怖いよぉ……苦しいよぉ……」


 しかし、その時のわたくしは隠れ場所から一歩も出ることができず、ひたすら怯え続けていた。

 父親が裏の仕事に手を付けた事は書斎で知った。

 他人を陥れ、わいろで他人と交流を深め、気に食わない者は暗殺する。

 まさに外道だ。

 しかし、そのツケが何故わたくしにまで来るのだろうか。

 屋敷の金品を強奪し、挙句関係者にまで危害を加える。

 これではどっちが悪人かわからない。

 毎日襲い掛かって来る追っ手に怯え続ける日々。

 生きているのか死んでいるのかわからない中、母親が自殺したのはもうまもなくだった。


=====


「どこにもいないか……」

「……」


 今日も知らない人がやって来る。

 もう何か月もたっているのに未だに来るなんて、父親はよっぽど恨まれていたのだろう。

 父も母もいない、幼馴染はどこか遠くに行き、友人や知り合いはみんな殺されるか逃げていった。

 誰も、わたくしの味方はいない。

 非力なわたくしでは、追っ手一人倒すことが出来ない。

 まさに絶望。

 どこへ逃げても誰かが追ってくる日々に、わたくしは生きる意味を失い始めていた。

 そんな時だ。


「これ……」


 足元に偶然落ちていたナイフを拾う。

 所々錆びており、切れ味は大分落ちているだろう。

 しかし、わたくしはそのナイフを掲げると同時に、


「いっ……」


 自分の手首をナイフで切り裂く。

激痛と共に切り裂いた箇所から真っ赤な血がドクドクと流れ出し、わたくしはその様子をずっと眺めていた。

リストカット、追い詰められた人が生きる意味を取り戻すために行う行為。

初めは痛くて何の意味もない、そう思い込んでいた。


「……もっと」


 今度はさっきと違う手首を切りつける。

 痛い、けど……何故か心が軽くなった。

 今まであんなに苦しかったのに、自分を傷つけるだけでこんなに安らぐのか。

 娯楽すらまともにない今、わたくしにとって自分を傷つける事だけが唯一の快楽となった……。 


=====


「見つけたぞ! へっへっ、随分と手こずらせてくれたなぁ?」

「親父さんから受けた傷、たっぷり返してもらうぜ?」


 ある日、わたくしは追っ手の前に進んで現れた。

 諦めた訳ではない、ただこの人達はどんな痛みを与えてくれるのか、それが気になっただけだ。


「さぁて、まずは一発ぅ!」

「っ!」


 屈強な男に顔面を思いっきり殴られる。

 その衝撃でわたくしは地面にうつ伏せで倒れ込んでしまう。

 ポタポタと鼻から血が流れ、意識も少しグラついている。

 かなりのダメージだ……でもまだ、まだ足りない。


「おら、倒れてんじゃねえぞくそったれがぁ!」

「ぶふっ!?……げほっげほ……」


 休む暇もなく、今度は鉄パイプを叩きつけられる。

 何度も何度も、血が出ようと骨が折れようと殴りつけられる様はなんてみじめだろうか。

 でもわたくしはこの状況を楽しんでいた。

 自分ではない、他人が与える痛みがこれほどまでに気持ちいいのか。

 苦しみを味わいすぎた影響で、わたくしの幸福概念は狂ってしまったのだ。


 =====


「オラオラァ!」

「ぐっ、はぁ……はぁ……」


 武器や魔法で痛み付けられる毎日。

 幸いというべきなのか、こいつらはわたくしをレイプしようとはせずただのサンドバックとして扱っているようだ。


「兄貴ィ! 次は炙り焼きにしましょうぜ!」

「お、いいなぁそれ! じゃあ早速……ファイア!」

「あっづ!? い、いだいっ! こ、こげああああああああああああああ!」


 肌に炎系の魔法を当てられ、肌が焼け焦げていく。

 全身はもうボロボロで動かすこともできず、休む余裕すらない。

 もはや奴隷のような扱い、だが。


「くくっ……」

「あ? どうした?」

「足りない……もっと虐めてください……こんな痛みじゃ、わたくしは満足できない……もっと痛みを! わたくしに生きる意味を! わたくしに……最高の快楽を! ふふふ……あははははははははははははははは!」

「ひっ、な、なんだこいつ……」

「い、痛みで感覚がおかしくなったんじゃねえか!?」


 変わり果てたわたくしに怯え、拳を振るう手を下げる男たち。

 ああ、そんなことしないで。

 わたくし、犬でも草でもゴミにでも何でもなります。

 だから……痛みを止めさせないで、わたくしに快楽を与えてください!

 闇の世界に巻き込まれたせいで、わたくしの人生は大きく狂ってしまった。

 だがそれと同時に、新しい快楽も得てしまったのだ……。

 ―

――

―――


◇◆◇

―――

――

 

「さて、リンネ……まずは何をしよっか?」

「……」

「おっけー、じゃ、まずは一発いきますかっ!」

「おゔっ!?」


 夜、ヤミシノの部屋でアタシはリンネに快感を与えていた。

 リンネが自分の事で迷っているのは当たっていたらしく、自分の狂った性癖に若干の嫌悪感を抱いているのもわかった。

 なら今晩は純粋に快楽を楽しめるよう、協力しなくちゃね!


「……ふんっ」

「っ! これは!?」

「拘束具……これならステラがやりやすい……」


 ナイスアシスト。

 うつ伏せになっているとこを何度も起きあげさせるのは面倒だしこれは助かる。

 拘束具で宙ぶらりになっているリンネを見て、アタシは無性にゾクゾクした。


「錬成」

「ひぐっ!? あああああああっ! あ、足が!」


 錬成で作った剣山をリンネの両足に突き刺す。

 空いた穴から血が噴水のように噴き出し、リンネはあまりの痛みに絶叫した。

 

「ふふ、どうだった?」

「あ、わ、わたくしはもう……こ、こんな……」

「うーん、まだ足りないか。ヤミシノ、神器でやっちゃって」

「了解……焼き尽くせ」

「ああああああああああああああああああああっ!」


 ヤミシノが神器から電撃を放ち、リンネを焦がしつくした。

 特に足の刺し傷は酷く、感電して血がブクブクしていてとても面白かった。

 もしかしてアタシ、Sの才能あるのかな?


「ステラ……がんばった……ご褒美」

「偉い偉い、んっ、ちゅっ……はぁ」

「んんっ……」


 ヤミシノと唇を重ね合わせる。

 口内で舌と舌が混ざり合い、よだれが地面にまでぼたぼた落ちていく。

 あぁ気持ちいい……。

 こうやってキスをし、身体を重ね合わせて愛を確かめ合う瞬間が一番幸せを感じる。

 

「ス、ステラさん達もかなり……」

「んー? やっぱり同性愛は気持ち悪い?」

「そ、それは別に……」

「大丈夫だよ。周りと違う事をしても、誰かに迷惑をかけているわけじゃないからさ」

「……」


 痛みで目が虚ろなリンネ。

 お、揺れ動いてる。

 結構時間かかるかな、と思っていたけどこれなら案外早く済みそうだ。

 んじゃ、後はヤミシノを利用すれば……。


「ヤミシノ、おいで」

「ん……」

「いい子だね。ご褒美あげるよ……!」

「ぐっ!? が……は……」

「!? ステラさん!?」


 ヤミシノの身体を錬成の壁が潰す。

 錬成の壁にサンドイッチされ、段々と骨が折れていく。

 ボキボキと骨が折れていく痛みに、ヤミシノは物凄く苦しそうな表情を浮かべている。


「ス、ステラさん……このままじゃヤミシノさんが……」

「大丈夫。死なない程度に加減はしてるしハイポーションだってある。それよりリンネ、これ味わいたくない?」

「な、何を……」

「リンネの顔、物凄く寂しそうだよ? “わたくしも骨を折られたい“、”わたくしにも快楽をー“ってね?」

「やめてくださいっ! わたくしが……そんな訳……」

「ふふ……あ、ヤミシノハイポーション。もうちょっと頑張ってねー」

「ありが……と……」


 ハイポーションがヤミシノを回復させたと同時に、錬成の壁が再びヤミシノを押しつぶす。

 んーしぶといなぁ。

 ハイポーションは大量に用意したけど、このままじゃ平行線。

 この状況が続くならヤミシノを開放してイチャイチャしようかなーと思っていると。


「リンネ……面白いよ……」

「ヤミシノさん……?」


 ヤミシノが悩むリンネに声を掛けた。

 ふむ、ヤミシノなら何とかしてくれるかもしれない。

 今日の夜は楽しくなりそうだ。

 くくく……あはははははは……。

 

 


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追放少女、最強の錬成師《ビルドマスター》として街を救う!? 甘なつみ @kasachi-raien

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