11.5 純正律と平均律

説明回です。

ある程度音楽の知識がないと読むのは厳しいかと思いますので、物語の続きが気になる方は読み飛ばし推奨です。

次話で大雑把にまとめてますので、読まなくても問題ありません。

5~6行読んでみてしんどいと思ったら無理せず飛ばしましょう!


――――――――


 揺らぎのない美しい和音とはどいういうものか?

 簡単に言えば、周波数の比が単純な整数比になるものだ。

 専門用語でこれを『純正律』とよぶ。

 例えば440ヘルツの『』を基準に『』『ド#C#』『』で構成される『Aメジャー』のコードを純正律で合わせると『ド#C#』は4:5で550ヘルツ、『』は4:6で660ヘルツとなり、4:5:6という非常に単純な整数比となる。

 そして単純な整数比となる周波数比こそ、澱みのない和音となるのだ。

 ところがこの純正律を基準にピアノを調律すると鍵盤ひとつあたりの音程にブレが出る、という大きな問題が発生する。

 たとえば『』から『』のあいだには黒鍵を含めて鍵盤が6つあり、この場合の周波数比は660÷440=1.5となる。

 次に別の音から始めた場合、たとえば『』のとなりの『』を基点にすると、あいあに6つ鍵盤を挟んだ先にあるのは『ファ#F#』である。

 それぞれの周波数を純正律に基づいて算出すると、『』は440と8:9の関係になる495ヘルツ、『ファ#F#』は440と3:5の関係になる733.33ヘルツとなる。

 その周波数比は733.33÷495=1.4814747... といった具合に、1.5とイコールにならない。

 つまり、同じ音程であるはずなのに、起点となる音が変わることで聞こえ方が変わってしまうため、転調や移調を行うと調律がずれたように聞こえてしまうのだ。

 大雑把に言ってしまえば、曲調がかわったり、雰囲気の異なる曲を続けて演奏すると、音がズレて聞こえてしまうという風に思ってもらえばいいだろう。

 これが例えばヴァイオリンなどフレットのない弦楽器であれば、指の押さえる位置を微調整することで、基音が変わっても純正律に合わせることが可能だ。

 それは管楽器や歌でも同様のことがいえるのだが、ピアノはそういうわけにはいかない。

 1曲終わるごとに調律するわけにもいかず、まして曲の途中でなどもってのほかだ。


 また、純正律には周波数の問題で使えない音が存在する。

 440ヘルツの『』を基準にした純正律の場合、『ラ#A#』『』『レ#D#』『ファ』『』の5音が使えない。

 12音中の5音が、である。

 また、『ド#C#』と『レ♭D♭』は同じ鍵盤なのだが、純正律においては違う音になる。

 このように、純正律で調律をしてしまうと、ピアノという楽器でできることが一気に狭まってしまうのだ。 


 そこで先人たちは『平均律』というものを考案した。

 平均律とは1オクターヴ12音を均等に分けましょうというものだ。

 合わせるのはオクターヴのみ。

 『A5』を440ヘルツとした場合、『A3』は220ヘルツ、『A5』は880ヘルツといった具合に、ここだけは2:1の単純な整数比に合わせ、それらに挟まれた11の鍵盤には音程が均等になるように音を割り当てていくのだ。

 先述した『Aメジャー』コードを例に出すと、『』=440は同じだが、『ド#C#』は550ではなく554.37ヘルツ、『』は660ではなく659.25ヘルツとなり、その比が単純な整数にならないことは一目瞭然である。

 簡単に言えば、ちょっとずつズラしていろんなことに対応できるようにしましょうね、というのが平均律であり、ピアノはこの平均律を元に調律される。


 ただし、微妙にズレているといっても、近年はこの平均律が当たり前のように使われている。

 なので平均律がもたらす微妙な和音のズレが気になるという人は、あまりいないだろう。

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