灰になった手紙より
愛するあなたへ。
あなたを取り巻く日々が、優しくあたたかな光に彩られたものでありますように。
まだ見ぬあなたに逢えることを、ママはとても楽しみに思っています。
願わくば、少しでも長い時間をあなたとともに過ごせますようにと、いつも眠るまえに精霊と王様たちに祈っているわ。
わたしは、あなたに逢えることを心待ちにしているけれど、あなたを取り巻く世界のぜんぶがあなたを愛してくれるわけではないとも、わかっているのです。
わたしに、あなたを守ってあげられるだけの力も、立場も、時間もないってことを。
ちいさなあなたが大きな悪意にさらされて、つらい思いをするだろうとわかっていながら、何もできないママを許してください。
あなたとどれだけの時間を過ごせるかわからないので、こうやって手紙を書いています。
おじいちゃんかおばあちゃんか、もしかしたらあなたのパパが、いつかこれをあなたに届けてくれるよう願いつつ。
あなたは今、どんなふうに暮らしているのかしら。
きっと素敵なレディになって、もしかしたら恋をしているかもしれないわね。
わたしは出逢いにめぐまれなくって、あなたのパパが最初で最後の好きなひとだったけれど、あなたはどうかしら。
たくさんの恋をするのも、ただひとりに想いをささげるのも、どちらも素敵なことだと思うわ。
願わくば、あなたの恋したひとが素敵なひとでありますように。
でも、もしかしたらあなたはわたしに似て、追いかける恋のほうが合っているかもしれないわね。
まだ顔も見ていないあなたの恋を想像して笑っちゃうなんて、おかしなママだと思ったでしょう?
そんな想像をすることで、未来のあなたの隣にわたしもいられるような気がしてしまったの。ごめんなさいね。
あなたのパパの話を少しだけ、書いておこうと思います。
ママがパパに出逢ったのは、雪が降りしきる寒い冬の日でした。
勢いだけで寒空の下に飛びだした、無謀で世間知らずなわたしを、パパは何も聞かずに助けてくれたのです。
凍ったような三日月が見おろす夜でした。
はじめて見たときのあのひとも、寒空に引っかかった三日月みたいでした。
運命的な出逢いだったって今もわたしは思っているのだけど、パパはどうかしらね。自分のことをあまり語りたがらないひとだから、困っていてもそれをわたしに言わなかったのかもしれないわ。
そして、ごめんなさい。
ママとパパは、一緒に暮らすことができませんでした。
身分違いの恋というのかしら。
ママはパパを本当に大好きだし、パパもママを大好きだと思うのよ。でも、今の国王陛下は許してはくれないって。
だから、あなたはパパの顔を知らないままかもしれないわね。
そうだとしたら、あなたにはきっと寂しい想いをさせてしまっているでしょう。
ごめんなさいね。
でも、これだけは忘れないでほしいの。
ママもパパも、間違いなく、あなたの誕生を嬉しく思っているわ。
心ないことを言う人たちもいるでしょうし、わたしがこんな形であなたを宿してしまったから、冷たくするひともきっといるでしょう。
それでもどうか、胸を張って生きてください。
あなたを授かったことは、わたしにとって奇跡でした。
薄曇りに閉ざされていたわたしの世界に、あなたの命はあたたかな光をともしてくれました。
ひとより短いと断言されたわたしの命だけれど、あなたのために最後まで頑張るから。ひとときでも一瞬でも長く、一緒に時間を過ごしましょうね。
あなたのためなら、苦いお薬も、苦手な運動も、ママは頑張れる気がするのです。
とても大切なあなたへ。
また何か思いついたら、お手紙を書こうと思います。
大きくなったあなたがこの箱を開けたとき、きっとびっくりしちゃうわね。困ったママだって、どうか笑ってくださいね。
そろそろあなたの名前も決めてあげないといけないわ。
誰より愛しいあなたに、きらめく宝石みたいな素敵な名前を考えてあげたいの。
よいものを思いついたら、書き残しておこうと思います。
楽しみにしててね。
そろそろ夜もふけてきたし、今日も寝るまえに祈らないとね。
おやすみなさい。また、明日。
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