第4話 未来への旅路

「米川さん・・・」

「どうやら、思いだしてくれたみたいね」

女は高校を卒業すれば、劇的に進化を遂げると言う。

しかし、米川さんは、その域を超えている。


これなら、分からないのも無理はない・・・


「一昨日、私が君に会いに来た時、『みんな、会いたがってる』と言ったよね?」

「ああ」

「気が付いていると思うけど、あれは嘘よ」

「・・・やっぱりな・・・」

そうだろうな・・・誰も僕とは、会いたくないだろう・・・

ならなぜ来た?ドッキリか?親がらせか?


ネガティブな思考が、脳裏をよぎる。


「でも、これだけは信じて。私は君に会いたかった。

これだけは、本当よ」

「どうして?」

僕は、わからなかった・・・

同じ放送委員会という以外、接点はなかった・・・


「いい?君は私の事を、友達が多いと思っていると思うけど・・・」

「・・・うん・・・」

「それは違う。私には本当の友達はいなかった。上辺だけの付き合い・・・」

「上辺だけ・・・」

「私は、自分を偽っていた。怖くて本当の自分を見せる事が出来なかった」

「どういうこと・・・」

彼女の次の言葉を待った。


「でも、君は違った。自分を偽ることはしなかった。

みんなはそれがおかしくて、君をいじめていたけど、私はそんな君が好きだった」

「うそでしょ?」

「本当よ。だから君が放送委員になった時、私も立候補したの・・・

君の事を、知りたくて・・・」

彼女の言うことが理解できないでいた・・・


「放送委員として活動している時、君は校内アナウンスをしていた。

他には誰もいない1人だけの委員会・・・

君はひとりになりたかったんだね。」

「・・・まあ・・・」

「私は君の事を知りたかった。だから後から加入したの」

「とめられなかった?」

「もちろん止められたわ。でも私は初めて自分の意見を通した。」

「通した?」

僕は不思議でならなかった。


「放送委員会では、君とふたりだった。

一緒に仕事しているうちに、本当の君が見えてきた」

「本当の僕・・・」

「はっきり言うわ。君はとても、強い。」

「・・・嫌味・・・強くなんかないよ・・・」

「いいえ、強い。いじめに屈しない強さを持っている。それに・・・」

「それに・・・?」

彼女の次の言葉を待つ。


「とても、優しい」

「優しくなんかないよ・・・」

「いいえ、優しいわ」

「根拠は?」

僕はそれが気になった。


「私が、好きになった人だから・・・」

「それだけ?」

「うん・・・でも、ひとつだけ、言わせて」

そういうと、米川さんは僕の手を握ってきた。

とても、温かい・・・


「お願い。もっと自分に自信を持って。

君は自分で思っている以上に、素敵な人なんだから・・・」

「素敵な・・・」

「・・・うん・・・」

彼女はとても、優しい笑顔を浮かべていた・・・


その瞬間、米川さんは僕の手を離した・・・

「迷惑掛けたくないから、もう私からは来ないわ・・・

でも・・・」

「でも?」

「もし、君が私に会いたくなったら、ここに連絡して・・

いつでも会えるから・・・」

一枚のメモを手渡された。

そこには、彼女の連絡先が書かれていた。


「お母さん、おじゃましました」

米川さんの声がしたようだが、耳には届かなかった・・・


その後、彼女・・・米川さんは来ることはなかった・・・


数年後・・・


僕は自然保護員になった。

世界中を忙しく飛び回っている。

簡単になれるものではないが、努力はしたつもりだ。


もちろん、1人ではない。

公私ともに、最高のパートナーがいる。

同い年の女性だ。

この女性となら、僕は頑張れると思う。

今は同姓となった、かつて米川里美だった方と・・・

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心の風景 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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