♯015-

遺物

せむしは街から街へ、西へと向かう。邑(むら)には立ち入らない。

昼は、己が大勢のなかのたかがひとりに過ぎず、居ても居なくてもかまわないと感じられる場を好んで歩く。夜は、あまり騒がしそうでなく、それでいて人の気配がさほど薄くもない宿を探して泊る。


泊まった宿に、誰のものとも知れない持ち物が置き忘れられているとき、せむしはそれをそのままにしておく。

大勢の人間が、この室で眠ってはまた出立して行った痕跡は、好ましい。彼らの影のようなものたちが、その先行きがどのようであれ、人は行きたいと処(ところ)に行くがいいと囁いているように思える。


しかし床や寝台に、誰のものとも知れない髪の一筋が落ちていれば、すぐさま指の先で拾い上げ、窓から外へと捨てる。

人の身体の欠片は、人の骸(むくろ)につながる嫌な感触を呼び起こす。

何処かへ行こうという人の意思などより、それを叶えるはずの器(うつわ)の不確かさこそが、全ての始まりであり終わりだと示している。

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せむし wataritori @wataritori

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