山明高等学校本校舎C棟三階隅の教室に集まったのは2人だけ
春。うららかな日差しが空き教室に差し込む。その部屋には俺、
『山明高等学校。少し都会で、少し田舎。電車で一駅北へ行けばそこには高層ビルが立ち並び。一駅南へ行けばそこには山、川、田畑が広がって。そんな両極端な場所に挟まれたのんびりとした町が山明町。カラオケはあるがボーリングはない。山はあるが川はない。両者を足して二で割ったとも違うどこか不思議な場所。そんな場所にあるのがこの山明高等学校である。』
「だってさ」
「……………今の音読は数学部とは関係あるの?」
「関係はないけど。そもそもこれってどんな状況なの。我々数学部二人しかいないんだけど。部活動における最低人数を満たしていないんだけど」
山明高等学校本校舎C棟三階の隅に存在している空き教室。部室棟であるC棟は主に一階と二階が使われており、三階はほとんど使われていないらしい。具体的な使用状況はこの教室のみ。そして、この孤立した教室を使う部活というのが、俺が所属する事になった数学部だった。
「新入生が入ってこないとかそういう次元じゃなくて、新入生の俺ら二人しかいないじゃん」
「それはそうよ。数学部なんて誰も入りたがらないでしょう」
「実際にここに来ている君が言うのかそれを」
「……………」
「おっ、集まってるなー」
少しだけ立て付けの悪いドアを喧しく開け放ち、空気をまるで読まない一言を言い放ったのは新卒でこの学校にやってきた数学教師、
『君、数学に興味無いか?』
『いえ、無いですけど。むしろ嫌いなまであります』
『部活は?』
『入らないつもりです』
『おー。じゃあ都合がいい。数学部に入らないか?数学教師の俺が言うのもなんだが少し数学の成績が有利になるかもしれないぞ』
『今入らないつもりって言いましたよね?』
しかし数学の成績は元々良くなかったので、まあ悪くないかとその餌に釣られた俺はその場で入部届けを出し、入学時に渡された地図を何度も見ながらここにたどり着いたわけであった。何かおかしいと気づいたのはそのタイミングではあったが既に入部届けは受理されているだろうから、とりあえず部屋で待っていたわけであった。
「集まってるも何も、俺ら2人だけなんですけど」
「人が2人以上同じ場所にいればそれは集まってるって言うんだよ」
「多くのものがひとつの場所に寄っている様子を表した事だったと記憶してますが」
「細かいことはいいんだ細かいことは。まあ、なんだ。数学部へようこそ諸君。人数は少ないがまあ楽しもうじゃないか」
二人からの言葉を適当に返しながら腕を広げて言い放つ。胡散臭い動作、胡散臭い笑顔。そんな先生からの言葉を、はいそうですかと受け入れられるほど俺の心は深くなかった。
「というか、聞いてないですよこんなこと。そもそも部活動が成り立たないじゃないですか。それともほかに部員がいるんですか?」
宮下先生は俺に部活に入らないかと言ってきたがこれでは部活が成り立たない。部活動として認められる最低人数は五人。今現在ここにいるのは二人。ならばあの入部届けも無効。めでたく僕は帰宅部生活になるというわけだ。しかし、宮下先生はいーや甘いな、と不敵に返す。
「八久。たしかにお前のその意見は正しい。しかし裏技というのはどこにもある。俺はこの学校のOBでな。校長の弱みを握ってるから二人以上いれば部活動として認めさせることが出来るんだ」
「待ってください。私はまだ入るとは言っていません」
「もう入部届けは受理されたが」
「くっ、ハンコを押す前にあれが入部届けだと気付くことが出来れば……………!」
数学部が認められるやり口は無茶苦茶そのものであったがもう一人の女生徒の方はかなり間抜けな方法で釣り上げられたようだった。何をどうやったらそうなるんだ。
「退部届けは受理しないからな。そのつもりで活動してくれ」
「いや、それってダメなんじゃないですか?」
「残念ながら俺は入部届けは既に受理してしまったからな。君たちの内申に傷が付くことになってしまう」
「「……………」」
「それは君達としても望ましいことではないんじゃないか?」
「勝手に入れられたのに」
「強制した覚えはない。佐々木のも、間違えて入部届けが紛れ込んだだけだからな」
佐々木、と呼ばれた女生徒は何も言えず、むしろ諦めたかのようにひとつため息をついた。
「なんだ?もういいか?じゃあ改めて」
もう一度、宮下先生はにこやかに笑い、腕を広げた。
「数学部へようこそ」
山明高等学校本校舎C棟三階隅の空部屋で行われる数学部の活動内容とは。 @YuriPosition
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