第2話 妙な朝
スロープではなく階段を降りてマンションを出ると、様々な種類の花が咲いた畑と小屋と小さな家々が見えた。そして、その上には視界いっぱいに扇形の空が広がっていた。一面の青地の下に薄い雲がまんべんなく散らばって、浅い水槽に入った水のような色あいに感じられた。
「いってらっしゃいませご主人様。車にお気をつけください」
「車なんて映画の中でしか見たことないよ」
「ふふ、一度言ってみたかったのです」
「……ふぅん」
玄関脇に備え付けられたインターホン兼スピーカーに手を翳して、右の方へと歩き出す。似たような形をしているようで全然違うデザインの、人間が十人くらい連なって肩車しても届かないのではないかと思うくらい背の高い建物。それがひと区画置きに並んでいるのが右眼に映る。間の区画は、よくある一戸建ての庭のように乱れていた。足元の、右半分だけまっすぐに砂利が敷き詰められた道とは正反対だ。
ここしばらく晴れの日が続いているので、道の左側を歩く。思った通り土は乾いていて、靴底は重くなることなく地面から次々と離れた。
「おはよ。今朝もノーメガネ?」
真っ白いマンションの前の黒いベンチからゴーグルをかけた大学生が立ち上がり、右側の道をまっすぐに横切ってこちらに寄ってきた。
「眼鏡ならかけてますよ」
「そっちじゃなくてー」
先輩には、この道は芝生にでも見えているのだろう。一瞬、二つの世界が重なって見えた気がした。
妙な夏 子山妙 @myokoym
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