妙な夏

子山妙

第1話 妙な目覚め

 目が覚めると、天井が異様に低かった。低いというか、近い。暗くてよく見えないが、起き上がると頭をぶつけてしまいそうなくらい、目と鼻の先にあるような圧迫感がある。


「は……?」


 なんだこれは。どうなっているんだ。


 混乱しつつも状況を把握しようと、左右と頭上に視線を走らせる。やはりというか、壁も体に触れそうなほど近くにあるようだ。まるで箱の中にいるような気分だった。


 瞬間的に緊張が走り、身体中の感覚が鋭敏になると同時に、足元から冷たい風が吹いてきているのに気づいた。


「ひっ」


 思わず息を呑む。だが、風以外の気配はなかった。おそらく風だけが足元から出ているのだろう。まるでエアコンだ。いや、この微かな音と匂いは紛れもなくエアコンのものだった。温度と風量は弱め、長時間浴びても問題ないくらいの強さに調節されている。


「そうか……、ここは、ベッドだ」

「正解です!」


 耳元のスピーカーからの声とともに天井の右側の隙間から光が漏れて、天井、いや、蓋が開いた。


「おはようございます、ニイゼロキュウ号室のご主人様! 当アパートで初めて迎える朝はどうでしたか? おっと、すぐ右側がユニットバス・カプセルになっているのでお気をつけくださいね。お荷物は左手の押し入れにありますので……」

「もういいです、思い出しました」

「承知いたしました! ご出発予定時刻まで、あと1時間5分です。それではよい朝をお過ごしくださいませ」


 スピーカーから雑音が消えた。


「はぁ、身体中が痛い。……気がする」


       *


 これが、これから二年間住む予定のワンルームマンション、「三畳立方メートル」での初めての目覚めだった。そんなに、悪くない。

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