時間と違い
千ヶ谷結城
時間と違い
もう手遅れだ。誰かに追いつくことなんて出来やしない。同時に、誰かに追いつかれることもない。
俺が生きた日々、時間は俺だけのもの。それが俺に残された、唯一の自由。
俺自身、それをどうにかできるわけでもないが、誰かに操作されることも絶対にありえない。
こうして産み落とされた今、俺だけのものって案外あるものだ。
目に映る風景。聞こえている音。感触。好み。=魂。
まるっきり同じやつなんて、この地球上に一人もいない。
“唯一無二”。
そんな四字熟語があるくらいだ。
しかし、それが本当に大切なことなのか。かけがえのないものなのか。
“ただ一つであり、二つとしてないこと”。
そんな言葉に惑わされて生きている。
簡単に言ってしまえば、それは誘惑であり、1秒先を生きるための指標である。
もしかしたらこうやって1日を記録している間に魂を失うかもしれない。
実体を持たない魂は再び新しい器を探して旅に出る。
魂の中身は共通しているが、器が変わった途端に、前の記憶はなくなる。
生きている間の永遠に変わらないものは、器が変わっても不変である。
しかし、前世の記憶は全くない。
前世の俺は、今の俺と同じように日記をつけていたかもしれない。
無意識に、現在の俺も日記を習慣としてしまっているのかもしれない。
そう考えると、生まれ持った才という可能性も否定できない。
才はなくとも、それが好みである可能性もありえる。
なぜ周りと違いが生じるのか。
それは、生きている時間が違うから。
誕生日、生まれた時刻、血液型、性格。
全く同じ者は、存在しない。
尤も、複雑に絡み合った人間の性格が正確に一致することはほぼありえないと思う。
もし、この世界に、同じ顔、誕生日、血液型、性格の人間が70億人いたとしよう。
すると世界はなんの障害もなく円滑に進む。
しかし障害が皆無の世界は何もない。
色の違いも、音の違いも、光と闇の違いもない。
きっと70億人の人間が言葉を交わして、手をつなぐこともないだろう。
そんな世界の何がいい。
いいことなんて、何もない。
同時に、悪いこともない。
違いがあるからこそ、社会が、世界が成り立つ。
正確さが問われる書類にある間違いは恐怖の対象である。
しかし社会は違いであふれている。
正解は用意されていない。
「解なし」で正答とされるわけがない。
結局は答えが出る。
それは一人一人違う答え。
それが人生の指標となる。
生まれたときに勝ち負けが決まった。
1秒先に生まれたら勝ち。
1秒後に生まれたら負け。
そうして、そこから自分だけの時間が流れる。
人間というのは、一人を2で割れないように、誰もが孤独であり、孤立している。
血が繋がっている、と言葉で形容しても、全く別の個体である。
もし繋がりが欲しいと思うのであれば、違いを持て。
同じになろうとするな。
いいか、平等と同じ、は違う。
平等な立場で違いを持て。
この俺がお前に追いつけないように、
お前も誰かに追いつくことはできない。
それは自然の摂理だ。
抗うことは決してできない。
諦めろと言ってしまえばそれまでだが、別方向から見てみるのも策だ。
俺の時間、お前の時間、彼の時間、彼女の時間。
自身の価値に見合った平等さがある。
お前が魂を失う時、俺はお前に追いつくのだろうか。追いついてしまうのだろうか。
……いや、それはないか。
なぜなら、俺とお前は根本的に相違しているのだから。
時間と違い 千ヶ谷結城 @Summer_Snow_
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