7カ所目 心の傷
「ふふふ・・・」
今日の私は機嫌がいい。
何せ今日は、どこを触られようが平気な日なのだ。
こういう日がもう少し多ければ、私も楽に過ごせるのだが・・・。
ほっと安心しながら、私はランチを済ませる。仕事再開までもう少し時間がある。
一人のんびりしていたところに、同じく食事を済ませたばかりであろう同僚が来た。
「よ、郁乃ちゃん」
「佐渡」
男女問わず苗字にちゃん付けで呼ぶ男。基本的には明るく人当りもいい。私たちは他愛もない会話をする。
「最近、暑すぎるよなぁ・・・。ったく、考えられないくらい暑いよ」
「確かにな」
「あ、考えられないといえば・・・」
「ん?」
「お前のあの時の失敗、あれ考えられないから」
「んんっ!?」
な・・・、こいつ、今日がその日か!?
「ホントさ、何であんな簡単なこともできなかったわけ?未だに信じられないし」
「あ、あぁ・・・」
佐渡、こいつの二つ名は、“時たま鬱陶しい”佐渡。
基本は良いやつとして通っているが、たまに人の過去の失敗につけ込んでくる。大体、その失敗は随分と前のことだろう!一体いつの話をしている!?
「郁乃ってしっかりしてそうで、実は鈍くさかったりするよな。ノロマっていうか」
「な、何だ、ひどい言われようだな・・・」
ノ、ノロマ・・・。
「普通、あんな失敗するか?正直信じられないっていうかさ。役立たずかっての」
「ふ、ふひっ・・・」
役立たず・・・。
・・・まずい。
今日の私は、外を触られようと一切問題がない。が。
それでもやはり感じやすい部分はあるわけで。
「もしオレが郁乃だったら恥ずかしくて会社しばらく休んでるレベルだよな、ホント」
「そ、そんっ・・・な、ことを言うな・・・よっ」
今日の私の性感帯は、心の傷だ。
つまり、過去の失敗をぶり返されると、その・・・堪らない。
「ったく、使えない女認定されるとこだったぜ?」
ネチネチネチネチネチネチネチネチとした佐渡の物言いは、私の過去の傷口を的確にいたぶってくる。しかも何と言うか、強すぎず、程よい加減というか・・・。
「ちゃんと反省してるのか?あの時の失敗は、下手すると大事になるところだったんだから。間抜けさんがよ」
「はひっ・・・」
私の心の傷が何度も何度も細かく
伝家の宝刀のマイクパフォーマンスで執拗に責められたら・・・!
「んっ、んんっ・・・!」
声が出る・・・っ。
何でそんなに心地の良い悪口を吐けるのだ、お前は・・・!
「・・・何で笑ってんだ、お前?」
「なっ、なにを言うっ!笑ってなどいない!」
「何か顔真っ赤だし。汗もかいてるし」
「あ、暑いからな!お前もさっき言っていたではないか・・・」
「はぁ、オレがお前の為思って勧告してやってんだからさ、真剣に聞けっての。そんなだからお前は駄目なんだよ」
「あ、あぁ・・・んっ・・・」
・・・だ、だって、お前が上手いから・・・っ。
ローテンションにも関わらず私にターンを回さないで執拗に迫ってくるから・・・!
「~~~~~っ!!」
・・・結局、その後も佐渡のネチネチとした言い回しは続き、私は逐一その言葉にびくんと体を悶えさせたのだった。まったく、何が楽に過ごせる日だ・・・。
《つづく》
24歳OL・郁乃清香の感じちゃわない日常 期待の新筐体 @arumakan66
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