一章・幕間
「もうほんっと、信じられない!」
そんなに驚くことかね。お前だって昨日は高1にして初めての友達が出来たから祝ってくれーとか言っていたじゃあないか。
妹は己の高ぶりを表現したかったのか、さっきから椅子の上に立って弁をふるっている。
「祝ってくれ、なんて一言も言ってないわよ。まあ出来たことには出来たんだけどね」
「ああーそのまんざらでもない感じ、最高に虫唾が走る!」
「うっさいわね・・・それにしても、あんたにもついに認知してくれる人ができたわけでしょ。ちっとも喜んでないように見えるのは気のせい?」
それがだな。こっちの事情はちょっと複雑らしくて、そっちみたいに万事円満ってわけにはいかなそうなんだ。主に相手の方に問題があるせいなんだけど。
「いいじゃないそんなの、多少の問題なんてこの際無視しちゃえば。これは完全に私の勘だけど、この機会を逃したらあんた、もう二度と友達つくれないわよ」
両手を腰に当て、真剣な表情で辛辣な指摘をしてきやがる。
確かにその指摘もごもっとも。だが妹よ、実際にあいつのキマッた目を一度見てみろ。あれは確実に何人か堕としてる奴の目だ。はっきり言って、あんなのと馴れ合うくらいなら孤独を貫く方が何倍もいい。
「そりゃそうでしょうよ。あんたの相手してくれるってだけで、もう人格なんてお察しじゃない」
お前もなかなか失礼なことを言うな。まああいつに対しての意見だと考えると全く持って異議はないです。
「俺だって最初の内は浮かれてたよ。やっと不幸な俺に神様が慈悲をくれたんだ、ついに俺にも出会いをくれたんだってな」
しかしこんな慈悲ならない方がマシだ。これでは、与えられたのは慈悲ではなく試練じゃないか。あんなのと関係を持たせておいて友達出来たよ良かったねーなどとほざく神がいるとして、そいつの正体は間違いなく悪魔かまたは堕天使のどちらかだろう。
「そこまで言うことないじゃない。どれだけ歪んでんのよ、その人」
「歪んでいるというか、壊れているというか」
「正直私はお似合いだと思うわよ。会ったことないけど」
他人事だと思って好き勝手言いやがる。こっちは本当に大変なんだぜ。
ああそうだ、
「会う会わないといえば、お前の友達とやらの方はどうなんだ。近々こっちに来るめどは立ったのか」
「そうね。あちら側は、いつでもいい、呼んでくれれば向かう、とだけ言ってたわ。兄ちゃんの都合で決めて良さそうよ」
昨日と打って変わってこの緩さである。絶対会ってもらう!とか息巻いておいて日程は俺に批准するとは、なんだか拍子抜けだ。こいつ、根本的にどこか抜けてるよな。
というかその友達とやら、もううちの住所を知ってるのか。しかも話を聞く限りここから相当近い場所に住んでいるようだし。妹とそやつとはまだ友達になって日が浅いとばかり思っていたので少し意外だった。おそらくこいつら、もう相当に仲がいい。
とにかく、日付をこっちで指定できるなら早いに越したことは無いだろう。めんどくさいから早めに終わらせようぜ!という感情に支配されていた俺は、特に熟考することもなく、さっさと「じゃあ明日、俺が帰ってきた後で」と決めてしまった。
「大丈夫?何かやらなきゃいけないこととか無いの?」
大事な妹からの頼みを差し置いて、他にすることなぞあるものか。いや、強いて言えば一つ、夏休みの課題を完了させていなかったことにより課されたペナルティをどっさり持ち帰ってきているのだが、かわいい妹のためならこんな紙切れの一つや二つ、教師の目の前で破り捨てる覚悟はできているわけで、まあ結局何が言いたいのかというとめんどくさいしやる気ないので別に大丈夫です。
「そう・・・分かった。伝えとくわ」
「ああ、頼む。じゃあ――お休み」
「うん」
そうやって妹とリビングで別れ自室に戻った俺は、ベッドに飛び込み翌日に備えて睡眠を――
――そういえば一睡もできなかったんでした。
目をつぶると、否応なしに瞼の裏へあの忌々しい光景がフラッシュバックする。
あなたに会いに来たんです――
派手な告白は実に結構だった。しかしその後のことを考えると、その場で即「結構です」と断っていなかったことが悔やまれるばかりである。
詳しくは、今から約半日前に遡るのだが――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます