一章・幕間
俺たちが住むこの地球には、大きく分けて人間の住める場所と住めない場所とが存在している。
もちろんこれは俺の常識の範囲内での話であって、俺が「こんなところ、とてもじゃないが住めない!」と思うような場所で普通に暮らしている人々も中にはいる。しかし、そんな暮らしに順応できるような変態的能力を持つ民族でもなんでもない俺たちにとって、今年の夏の日本は間違いなく人が住めるような場所ではなかった。
まるでサウナにでも入っているのではないかと錯覚するほどの猛暑。アスファルトの上に歩みを進めると同時に全身の毛穴から噴き出す汗を下着に染み込ませていると、ようやく坂の上の蜃気楼の先に校舎が見えてきた。相変わらす強烈な日差しと高い湿度が俺の不快度数を全力で上げにかかっている。
おいおい、こっちは徹夜のダメージが癒えていないのにわざわざ来てやってるんだぞ。今日くらい気を利かせて、過ごしやすい天候にしてくれたっていいじゃないか。昨日俺が祈った神はそこまで無慈悲だったのか?
そんな誰に向けたとも分からぬ文句を延々と垂れているのだが、肩にかけた鞄に入った未完了の課題とブツによって引き起こされるであろう教師とのあれこれに思いを巡らすと、文句を考える余裕すらも無くなりただひたすらため息が出るばかりになってしまった。
ちなみに、妹は俺の外出を待つことなく早朝一人で登校して行った。俺に付き合って徹夜で課題を手伝ってくれた(結局終わらなかったが)最高の妹ではあるが、お互い一緒に登校する友達がいない俺たちがこれまで暗黙の了解として一緒に登校してきたことを鑑みて、この行動は少し疑問だった。
しかし、あんなに楽しそうに登校していく妹を見るのは久しぶりだった。うーん、これも例の友達の影響なのか。
そもそもその友達とやらはうちの高校の生徒なのだろうか。昨日、プールから帰ってきた妹にすり寄って得られた情報といえば、そいつが妹より「年上」で、かつ「女」であるということだけだ。後のことは「会ってからのお楽しみ」とか言って教えてくれなかったが、どうせ近いうちに俺と対面するであろうそいつの情報をここまでひた隠しにする必要があるだろうか。
――まあいいさ。俺がそいつに会うことで妹が満足するのなら。
妹には子供の頃から大量に貸しを作っているし、その清算と言ってしまえば身も蓋もないが、とにかく俺は妹に協力できることがあればなるべく率先して行動するよう、日々心掛けているのである。
なに、人一人に会って雑談することくらい、なんてことはない――
そう、その時は思っていた。
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