穴を広げる拷問

「痛いとこからやったほうがあとが楽だから」 

と作業服のおじさんは言って両頬に2つずつ、小鼻を貫くように1つ、耳たぶにも1つずつ短く細い釘を打った。その後、5cm程の間隔をあけて両手の裏表、両足の三方向ににも規則正しく、リズミカルに打ち込んでいく。激しい痛みが全身を襲うが出血はそれほどでもなく、台を壊さんばかりに身をよじっているつもりでも指の一本一本まで何十箇所にもがっちりと固定された金具は私に弱々しい痙攣しか許してくれない。

「次に背中とおっぱいやったあとお腹いくからね」

と言った時におじさんの携帯電話が鳴り、さっきまでのくだけた拍子とは明らかに異なった勤め人のようなはっきりした口調で応対する。電話を切って言う。

「ごめん、続きは明日やるから。この金具外すし部屋で自由にしていいけど釘とっちゃ駄目だからね。」

 おじさんが部屋から出てすぐ金具のロックが解除され、私は釘を全て引き抜く。抜くたびに涙がこぼれそうになるけれど、最後の方は何も感じず無心で抜けるようになる。ごみごみとした部屋を漁っても武器になりそうなものは見当たらず、脱出出来そうな場所を探すももちろん無い。窓には鉄柵が十字に敷かれているし、そもそも位置が高すぎる。一面だけ鏡になっている壁に椅子を叩きつけても傷一つつかず、疲れてそのまま眠る。

「駄目じゃん外しちゃ。僕言ったよね?」

 目が覚めるとまた金具に拘束されていて、近すぎる位置にあるおじさんの顔は怒っているようでもなく呆れているようでもなくただ面倒くさげだ。

「またやり直しだよ。そっちは寝てるだけだけどこっちは全身運動なんだから〜やめてよね。」

 予告通り昨日と同じ位置に、背中からおしりにかけて学校の座席表のように、乳房には円を描くように整然と釘を打つ。女の子は見えないところにもおしゃれに気を使わなきゃねと言いながら乳首に釘を打たれた時は嫌悪感で少し吐いてしまう。

 お腹は適当でいいよって言われてるんだ、と口の拘束を外しながらどうしてほしいか私に聞いてくる。

「なんでこんなことをするんですか」声が掠れ縮こまり絶え絶えになっている。

「おお、質問に質問で返す人って本当にいるんだね。まあ希望がないならこっちで決めるよ。」

 抵抗も虚しく再び口枷がはめられどうすることもできないのでいっそ目を閉じる。が耳は勝手に情報を拾っていく。紙をめくる音が聞こえる。

「やっぱ個人的には文字がいいと思うんだけどスペースは限られてるし打点は5cm以上は間隔開けなきゃいけないから簡単な字に限られてくるのがネックだよね。君のウエストは細いけど漢字1文字かカタカナだったら4文字くらいは流石に入るかな? あ、ごめんごめん昨日あったばっかりの女の子に『君』なんて失礼だね。えー大川恵ちゃん。これはケイかなメグミかな? まあどっちでもいい名前だね。これにしよっか。」

 そう言っておじさんは私のお腹に釘を打つ。さっきよりは楽しそうに。


 それから数日は何もされない。ちゃんと3食もって来てくれるし献立も融通がきく。鋲を外すと翌日補完されるが痛みも永遠に続く訳でもないので慣れてきて、部屋に置いてある汚らしいぬいぐるみに名前をつけて一緒に遊んだりして気が狂いそうな状況を嘘で紛らわす。

 初日から一週間後、目が冷めた私はまたも台の上で目が覚める。おじさんは全ての釘を抜きだし、私は開放される安堵から泣きだしてしまう。新しい釘を打たれ、消毒され、また一人で部屋に残されるともうその頃には涙は枯れていて、延々と呪詛を唱えながら鏡に頭を打ち付ける。

 それから1週間ごとに釘を新しく打ち直す。薄々は気づいていたが14週目におじさんから釘をだんだん太くしていると教えられる。私の穴は治りかけては広げられ、ついに釘ではサイズが足らなくなったらしく、来週からはボルトを使うらしい。おじさんの仕事は素早く丁寧で、正確に同じ点を打ち続けるので私の皮膚の狂った水玉模様は歪まない。お腹の文字は穴が広がりすぎたせいで滲んで読めなくなる。その意味すら忘れた私は滴った涎で出来た水溜りを眺めながら食事を待っている。大好物のたらこスパゲッティを。毎食。

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