第4話 『ぬし』釣り勝負
ふたりは、使用するルアーにスプーンを選択した。スプーンとは、食器のスプーンの柄を取り除いたような形をしたルアーのことである。
晴人は細かいラメが入った緑色のものを、真守は赤と金の配色のものをそれぞれ選択する。釣り糸に取りつけ、ほぼ同時に投げ入れた。
着水と同時に20秒カウントし、ゆっくりとリールを巻いていく。反応はまだない。
(まあ、すぐには来ないよな)
どこか納得している真守は、何度もルアーを投げスローリトリーブをくり返す。
ちらりと晴人を横目で見ると、魚とファイト中のようだった。竿先のしなり具合からして、午前中に釣り上げた魚と同等の大きさだろう。彼の足もとを見ると、網が準備されていた。午前中の失敗が活かされているようである。
晴人のことは心配しなくても大丈夫だろうと思い、真守は自分の釣りに専念することにした。相手にするのは、警戒心の強い魚である。放流された直後の魚を狙う時よりも丁寧な誘い方をしないと、ルアーに食いついてくれない。つまり、集中力が必要になってくるというわけである。
しばらく、ルアーを投げ入れ少し待ってゆっくり巻くをくり返していると、待望のアタリがあった。はやる気持ちを抑えつつ、慎重にあわせる。
(やった!)
確実な手応えがあった。
しかし、竿から伝わる魚の重さを感じて、真守は『ぬし』ではないと直感する。そこまで重くはないし、引きの強さも午前中に釣り上げた魚と同じくらいなのである。
数回の攻防の末に釣り上げたのは、午前中に釣り上げた魚とほぼ同じサイズだった。少しがっかりしながらも、針からはずしたイワナをびくに入れる。
(……でも、底近くにいるのは確実だよな!)
真守は気を取り直して、ルアーを投げ入れた。しばらく待ってからゆっくり巻き始める。
しばらく巻いていると、ゴツッ! という衝撃にも似たアタリがあった。慌てずにあわせると、手応えがある。しかも、かなりの重量だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます