間話 私だって頑張ってる

 私、遠藤千綾は苦戦していた。


 お昼休み。年下しかいない教室。留年したらこんな気分なのかな。

 中学三年生の時、私は一時期学校に通えなかった。だから三年の六月にあった修学旅行も私は行っていない。まぁ、色々あったのだ、と。けど、後悔はしてない。そこにそれほどの価値を感じられなかったからだ。


 うん、まあ、学校に行ってなかった私は、高校を受験するかどうかも悩んだ。かといって働く気もなく、ただぼーっと漠然としたこの先の未来に立ち止まるだけ。


 担任の先生や親に死ぬほど反対された。だから私は百歩譲って受験を一年ズラしてほしい、つまり、一年留年させてほしいと、そう頼んだ。……やはり、死ぬほど反対された。


 何が言いたいかっていうと、まあ、この状況は中学三年生の時に想定していた状況と似ている。だから、余裕……だと思ってた。




「つーかさっ、若様かっこよすぎでしょ!!」


 ショートボブの小柄な女の子は、嬉々として私こと、に伝えてきた。


 ……この子は確か……三組の石動さんだ。美波ちゃんと一番仲の良い女の子。


「そうね」


 私の当たり障りのない返答に、石動さんは顔を曇らせる。


「美波は若様よりも、吾郎衛門の方が好きだもんね」


「そうね」


短く、端的に、相槌だけをうつ。

そんな私を見て、石動さんは目をパチクリ。


「……な、なんか、さ」


「ん?」


「美波、雰囲気変わったね。なんか年上のお姉さんと話してるみたい」


 私は飛び跳ねるように驚いた。


「ど、どどどどどこが!? 全然子供でしょ!」


「……え、いや、褒めてるんだよ? だっていつも美波ってば、早く大人になりたいって、うるさいじゃん? 美波大人になれてよかったね! いやぁよかったよかった」


「へ、へぇ」


 しまったぁ……。私のイメトレ、留年は想定していたけど、外見が美波ちゃんであることを想定してなかったぁ。


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恋に落ちるが腑に落ちない 坂本 森太 @boruo-sacamoto_0711

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