第6話 私の名前は

怪物から逃げる私。あの2枚の自動ドアを抜ければ外だ。きっと外なら別に助けてくれる人もいるはず。


1枚目の自動ドアが目の前に来てゆっくり開く。そこの隙間を私達は稲妻の様に走り抜ける。後ろなど構って振り返っている暇などない。


2枚目をくぐり抜けるとやっと外だ。流石にドアを突き破る事などないからもう大丈夫だろう。私はバランスを崩してその場にしゃがみこんでしまった。


「あの」


声を出した時だった。後ろを振り返ると怪物が1枚目の締まりかけの自動ドアを割り破って突進してくるのだ。ああ、またとんでもない事になった。もう逃げ場も勝ち目もない。もう疲れ果てて立てもしない。せっかくここまで来れたのに。

再び諦めようとした時、私を助けてくれた彼女が自動ドアの前に立ちはだかる。


「死んじゃいますよ!!!逃げて下さい!!!」


私は金切り声をあげて叫んだ。何をやってるんだろうこの人は。自動ドアは締まりかけているが関係ない。死んでしまう。


「しまれ」


彼女が自動ドアの前に手をかざしてそう言った。すると自動ドアは倍以上のスピードで動き、スパン、と音を立てて閉まった。


「危ない危ない危ない!!!!」


死んでしまう!


ドンッ!!ドンッ!!ガンッガンッ!!


…死んでしまう?


目を開けるとそこには2枚目の自動ドアに頭をぶつけて悔しそうに唸る獣の姿があった。

なんで?それぞれのドアの材質が違った?分からないがひとまず安心だ。


「あのー、もう大丈夫でしょうか…?」


恐る恐る立ち尽くす彼女に聞いてみる。彼女はこちらを向いて、


「大丈夫だけどあんな所に居たら危ないよ。」


と、言った。日の下に出て初めて見た彼女の顔はとても美人だったが性差があまり出ないようで女性か男性かは分からなかった。背格好も大人と言うよりかは15.6くらいの男女を平均した感じだった(おそらく165cmくらい?)服装は茶色いコートを羽織って中にワイシャツを着込みハーフパンツに茶色いブーツと言った全身茶色っ

ぽいコーデで少し変でもあった。


危ないよ、と咎められたもののその口調は怒っていると言うよりは心配してくれたと言う方の感情が多そうな口調だ。


「すみません。私も気がついたらここに居て…先程は助けてくれて、本当にありがとうございました。私1人じゃきっと死んでました。」


私が話しかけるも返事がない。なにか不思議そうな顔でこちらを見ている。それもそうだ。自己紹介が遅れてしまって

い…た…?


自己紹介…?


そこで私は思い出した。自分は誰なのだろう。そうだ、忘れているのだ。自分は何者なのだろう。


「あの、すみません。自己紹介しようと思ったんですけど私なんだか頭をどこかに打ったかも知れなくって自分の事が分からないんです。ここがどこかも知らないし、なんであんな怪物に追っかけられてたのかも」


私は事情を説明したが更に相手はキョトンとするばかりだ。


「すみません。色々私ばっかり喋っちゃって。お名前、聞いてもいいですか?」


「京。私の名前は京。」


相手は京と名乗った。フルネームじゃないのは気になるがとにかく京と言うらしい


「あの、京さん。ここの近くに警察署とか病院ってありますか?」


保護して欲しいんですけど、と付け加えたが京さんは無表情のまま答えない。


「あのー」


声をかけると、やっとの事で京さんは口を開く


「警察も病院も表に行かなければないけど、君の場合それだけじゃ済まないと思う。私は難しい話が苦手だから一旦家に来て話せる人と話した方がいい。それに君の制服にはどこか見覚えがある。きっと力になれるはずだ。」


自動ドアに映り込む自分の姿を確かめる。私はセーラー服の半袖に、首にマフラーを巻いてお下げを後ろに垂らしていた。半袖にマフラーは京さんに劣らないおかしさではあった。


「ここに居ても疲れるだけだし私の家に行こう。君、名前はわかる?制服に書いてあったリしない?」


ハッとしてセーラー服の裾や背中を見たが特に何も書かれていない。ポケットも探したが何もなかった。他に思い当たるのは首から下げたカメラだが、果たして書いてあるだろうか?手に取りくまなく探してみる。デジタルカメラという訳でもなくパッと見おもちゃのような作りのカメラだ。弄くり回すと1箇所ナイフのようなもので切り刻まれた跡がある。


チ ヅ ル


とても汚く切り刻まれていたものの辛うじてカタカナでチズルと読めた。このカメラは最初から持っていたものではく途中で手に入れた物だが、今はこれしかないのだ。ちゃんとした名前が分かるまで名乗っておこう。


「チヅル、ってカメラに書いてあるのであ恐らくチズルだと思います。」


「じゃあチヅル。いこっか。バイクで来たから後ろに乗って」


彼女は基本無表情だがそんなに悪い人ではないらしい。彼女が引っ張ってきた原付の後ろに私は乗った。


「これでいいですか?」


私がそう言うと彼女は頷き原付にまたがる。

つかまっててと、彼女は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

東京連歌 @odaodahajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ