終幕

「これで、よし、と……」

 警察と叔母さんに連絡を済ませると、バッグに携帯を仕舞い、後ろ髪を撫でつける。

……多分、私の考えは……間違えてない……。

 どういうわけか、言いようもない自信があった。

 この数日間の体験で、おかしくなったのだろうか?

 わからない。

 でも、タカハタが捕まれば……。

 私の考えは証明され、私が体験した一連の出来事にも意味を見出せると思う。

……もしかしたら……私の考えが正しければ……だけど……。

 〈篠美〉は取り憑かれていたのかもしれない。

 妻の怨霊と、ずっと一緒に暮らしていたのかもしれない。

 仲が良かった夫婦。

 何で、妻は殺されたのか……。

 全ては、タカハタが捕まれば……分かる。

 そして、私も……。

「帰ろ」

 どこかやりきったような、すがすがしい気分。

 両手を高く上げて大きく伸びをしながら歩道に出ると、ちょうどタクシーが通り掛かった。

 伸びをしたままの手を振って、タクシーを止めた。

……良かった……グッドタイミング、ね……。

 肩に掛けたバッグを手に持ち直すと、タクシーに乗り込んで行先を告げる。

「いや、お客さん! 今のマンションに住んでるのかい?」

 大きく息を吐きながら、シートに身を預けた時。

 良く通る声で、ドライバーが話しかけてきた。

「……いえ、住んでませんけど……」

 そう答えて、ミラーに映るニヤケ顔の中年ドライバーの顔を見ると、前髪を払った。

「そうですか。それじゃあ、あのマンションの噂は、知ってますかねぇ?」

 ミラーに映るドライバーのニヤケ顔がさらに緩み、妙に通る声で質問してきた。

……そう…………噂、ね……。

 遠く小さくなっていくマンションを一瞥すると……。

「知ってます」

 そう答えて、髪をかき上げた。


   了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フロアーⅩⅢの心象 百十 光 @hyakuto110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ