エピローグ

 セミたちは、相変わらず元気に鳴いている。田んぼの畦道を通り抜けていくトラックのおじさんも、相変わらず僕を見て舌打ちをする。


 、僕は予想通りこっぴどく叱られた。親に知らせず、こんな時間までどこにいたのかと、質問攻めにあった。

 もちろん全部話せなかったが、野良猫の話だということにして、事の説明をした。元々帰るのが少し遅いことを気にしていたようで、ようやく納得できたようだった。

 野良猫は最後死んでしまった、ということにしておいたせいか、その日はやけに両親が優しかった。それが僕には暖かくて、また少し隠れて泣いた。

 それからは毎日のようにあの川に通って、その日あった事を一人で話していた。話すことは苦手だが、話すために毎日色々な話題を用意していた。

 面白かったバラエティー番組の話、感動した映画の話、道端に咲いていた雑草の話……そして、友人ができた話。

 今日はその友人と、あの滝へ向かっている。

 信じてもらえないかと思っていたが、案外あっさりと信じてくれた。多分、根が素直なのだろう。

 友人になったきっかけも、彼が素直なおかげだった。席替えで偶然隣になり、声を掛けてきたかと思うと、いつの間にか懐かれていた。僕は輪に入れていないぞ、と言っても、関係ないと笑われてしまった。

 その性格は、少し彼女にも似ている気がする。だからこんなに仲良くなれたのかもしれない。

 それもこれも、彼女のおかげだろうか。

 そんなことを考えているうちに、僕たちは古びた鳥居を抜けた。彼は神社の雰囲気に慣れていないのか、少し表情が強ばっている。

 それを見て僕が笑うと、彼も口角を緩めた。緊張は解けたように見える。

 神社の石段を登り切った時、一陣の風が吹き抜けた。僕たちを歓迎するようなその風に、僕は口を開く。

「ただいま」

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さよなら、僕の神様 氷菓の骨 @yellow83

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