絡まったイヤホンを解く男女の話。

みやざき。

最悪な日の、午後九時ごろ。

 ポケットから取り出したイヤホンが滅茶苦茶に絡まっていたので僕は思わず溜め息をついてしまう。

 今日を総括してみると、なんとまあ良くない日だったのかと思う。昨日点けっぱなしで寝てしまったテレビが、寝起き間もない僕に牡羊座は今日の運勢が最悪です、と申し訳なさそうに告げる。大学の講義は突然休講になってしまい、時間を持て余してしまったし、自動販売機に120円が飲まれてしまった。バイト先に向かうための電車の乗り換えはもちろんうまく行かなかったし、してもいないミスを追求され滅入ってしまった。

 しがない大学生の僕はできるだけイヤホンを壊したり無くしたりしたくない、だからいつもイヤホンを巻き取るやつ(あれの名前はなんというのだろう)にイヤホンを几帳面に巻きつけてカバンにしまっている。だから、今日のようにバイトが終わったあとに投げやりになってイヤホンをポケットに突っ込んだりしないとイヤホンが絡まってしまうことはないのだ。

 このイヤホンを電車内で解いている時間ほど無意味な時間も中々ないし、周りの人から見られるのも少し恥ずかしい。こんなところまで運勢が最悪なのかとつくづく今日という日への恨みつらみを感じていた。


 そんなとき電車に駆け込んできた女性がいた。同世代くらいであろうその女性は肩くらいまでの長さの黒髪を乱し、長距離走を終えたばかりのように肩を上下させていた。一日に疲れきってしまったような表情を浮かべたその女性は肩掛けの可愛らしいカバンからイヤホンを取り出し、傍目から分かるほど大きく溜め息をついた。


 散々な一日だった僕はこれ以上悪いことはないだろう、そんな風にふと思ってしまった僕は思わず絡まったイヤホンを解いているその女性に声をかけてしまった。


 「イヤホン、絡まっちゃうと嫌になりますよね。……あの、もしかして、牡羊座だったりしませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絡まったイヤホンを解く男女の話。 みやざき。 @miyashioi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ