突拍子もない男の子と、幼馴染の女の子のお話

海ノ10

唐突な日常






「よく『自分の人生の主人公は自分だ』的なことを言ってるの聞くけどさ、普通の人は主人公に向いてないと思うんだよね」


夕暮れのとある部室

少年、柘榴ざくろたくみは唐突にそう言った


「……たっくんはまた唐突だね」


巧の発言にそう返すのは、巧の幼馴染である花崗かこうそら

その声には若干の呆れが入っていたが、巧はいつも通りのことなのであまり気にしなかった


「だってさ、大抵の話の主人公って不思議なことに巻き込まれたり、悲しい過去を持ってたり、変な性格だったりするじゃん」

「まあ、確かに」

「でも、普通に暮らしてたらそんなの起こんないよね?」

「そりゃあそうだ」

「だったら、僕たちが主人公だったとしても、面白みのない物語が出来上がって終わりだと思うんだ」

「だから、普通の人は主人公に向いてない?」


空の発言に、巧はこくりと頷く

そんな巧にはぁっと溜息を吐いた空は、呆れたように言う


「そもそも、『自分の人生の主人公は自分だ』って、そう言う意味じゃないと思うんだけど?」

「へ?」

「ああいうのってキャッチフレーズっていうか、ことわざっていうか、そんな感じのもので、マジレスしていい類のものじゃないと思うんだよね」

「……あぁ、そういう……」


空の言葉が目からうろこだった巧は、何かをまた考え始める

そんな巧を空は「まったく、たっくんは仕方ない子なんだから」的な感じの目で見ると、手元の本に視線を戻す

巧が話し出す前は本を読んでいた空は、先程読んでいたところから再び読み始めるが、どうも内容が入って来ない

それも仕方ない。あの・・巧が何かを考えているのだから

昔から、巧が何かを考え込んでいるときは、何かしらの馬鹿げた結論に達する

しかも、その結論をもとに突拍子もない行動を取ろうとするのだ

毎回毎回それを止めている空からすれば、考え込んでいる巧が居るだけで気が気でない


「……そっか、するとあれがああなって……」


しかも、何かをぶつぶつ呟く程考えることに集中している

空は、最終的に出される結論が怖くて仕方なかった


(……この前は、何故か冬の川に飛びこむって結論になってたなぁ……)


遠い目をしながら最近の出来事を思い出す空

ちなみに、巧が川に飛び込むことは回避されたのだが、その代わりに水風呂で足湯をする羽目になってしまった

空からすれば、全くもって意味が分からない


「よし!わかった!」


そう叫んで急に立ち上がる巧に、空は身構える

どんな行動に出ても止められるよう、空自身も立ち上がって本を机の上に置く


「僕が、普通じゃないことをすればいいんだ!」

「……は?」


思わず、低い声が出てしまった空

だが、それも仕方ない。空からすれば、よく変な行動ととる幼馴染が急に「普通じゃないことすればいい」とか言い出したのだ

どの口がそれを言うのだと思ったに違いないだろう


「た、たっくん?」

「うん。そりゃあそうだよね。主人公は、変わった人間。だったら、自分の物語の主人公である僕が変わった行動をすれば、僕は主人公にふさわしい人物ということになる」

(な、何言ってるの!!?)


心の中で突っ込まずにはいられない空

仕方ない。今日の結論もいつも通り頭のおかしいものだったのだから


「ちょ、ちょっとたっくん!?変わった行動って何!?」

「ん?」


巧は、空を見た状態でフリーズする

実は、そこまで考えていなかったのだ。いや、考えるのを忘れていたという方が正しいか


「た、確かに……変わった行動って言うのは何をすればいいのか……」


巧はそう言ってまた考え始めるが、それと同時に空も考え始めていた


(どうする?こうなった巧を止めるのは難しいけど、この流れだと止めなきゃ絶対後悔する!

 でも、巧が始める行動なんか全く読めないし、これじゃあ止めようが……)


頭の中で堂々巡りを繰り返す空

一方の巧は、もう何かしらの結論に至ったようだ


「よし!わかった!空、僕明日から旅に出るね!」

「ちょっと待って!なんでそんな結論に至ったの!?」

「え?だって、旅をすれば何かしらの『変な出来事』に巻き込まれるかなぁって」


斜め上の結論に、空は大声を出してしまう

てっきり、『道端で猫を助ける』とか、『何かしらのスポーツで頂点に立つ』とか、そのようなことを言いだすと思っていたのだ

ところが、巧が出した結論は『旅』である

予想外にも程があった


「そりゃあそうかもしれないけど!っていうか、今日思いついて明日旅に出るって普通じゃないから!」

「おお!じゃあ、旅に出るだけで『普通じゃないこと』ができるのか!」

「そう言うことが言いたいんじゃない!!」


糠に釘、暖簾に腕押し

そんな言葉が頭に浮かぶ空は、この状況をどうすればいいかを必死に考える


「とにかく!旅は駄目!」

「どうして?明日から春休みだよ?」

「そう言いながら旅に必要なものをリストアップするな!っていうか、テントって何!?野宿する気なの!?」

「え?旅っていったらテントで焚火じゃないの?」

「ホテルとか旅館とかあるじゃん!そもそも、テントなんか持っていったら重いよ!」

「確かに」


巧は「それもそうだね」と呟くと、手元の紙に書いた『テント』と『寝袋』を二重線で消す


「っていうか、お金はあるの?移動費だけでも馬鹿にならないよ?」

「世の中には、五日間電車に乗り放題の切符があってね、とってもお得なんだよ?」

「それでも、旅館代とか、食費とか!」

「数年分のお年玉と、健太伯父さんのレストランを手伝ったバイト代を使えば問題ないよ」

「でも!一人だと危ないし!」

「じゃあ、空もくれば?」

「……嫌だよ!お金ないし!」


一瞬、巧との旅行を想像した空だったが、頭を左右に振ってその想像を吹き飛ばす

その頬はうっすらと朱に染まっていたのだったが、二人とも気がついてはいなかった








翌日の朝

結局、必死に止める空に負けた巧は、春休みにも関わらず学校に来ていた

巧は文芸部と書かれた部室の中に入る

すると、そこには既に空が居て本を読んでいた


「おはよう」

「おはよ、たっくん」


空は短く挨拶を返すと、また本を読み始める

基本的に空は、本を読み始めるとそこに集中してしまい、会話すら成り立たなくなる

ただし、例外は巧の唐突な話を聞くときで、その時だけは本を読むのを止めるのだ

もっとも、それだけ巧が危なっかしいという理由もあるのだが……


「あのさ、昨日家に帰ってから考えて思い至ったことがあるんだ」


巧がそう話し始めると、空は本に栞を挟んでから顔を上げて巧を見る


「すごい突拍子もないこと言うんだけどさ……」


そう前置きをする巧に、空は身構える

あの巧が突拍子もないというほどのことだ。いつも以上に体に力が入る

空はごくりと唾を飲み込むと、神妙な顔つきで、「……なに?」と尋ねる


「……僕って、結構変わってると思うんだよ」

「……は?」


斜め上どころか、数回転ぐらいしそうなほど思いがけない回答に、空はずっこけそうになる


「いやね、今までの行動を冷静に考えてみたんだけど、家で雀を買おうとしてみたり、真冬に水で足湯をしてみたり、謎の装置を作ろうとしてみたり、僕って割と・・変だと思うんだよ」

「……たっくん、一つ言っていい?」

「うん」

「今更過ぎるよ!?」


空の渾身のツッコミが入る


「というか、なんで今まで気が付かなかったの!?ちょっと考えたら分かるよね!?」

「そ、そんなに?」

「そんなにだよ!っていうか『割と変』ってレベルじゃなくて、『普通に変』だよ!

 たっくんがイケメンなのにモテないのは、その変な行動のせいだからね!?

 女の子たちから『イケメンなのに残念』って言われてるんだよ!?校内全員が認める変人だよ!?

 っていうか、いっつもフォローしてるあたしがどれだけ苦労してるか知ってる!?」

「な、なんかごめん」


すごい剣幕でまくしたてる空に、巧は後ずさりながら謝る

それで少しは気が晴れたのか、「……分かればいいから」と言って、それ以上言うのを止める空


「……僕、そんなに迷惑かけてた?」

「う、うん。まぁ……そうかな?」

「そっかぁ……」


巧はそう呟くと、また何かを考え始める


「じゃあさ、今の僕は主人公としてふさわしいってこと?」

「……は?」


心の底からの「は?」が出た。当然である


「だってさ、急に突拍子もないことを言いだしては、美少女の幼馴染に止めてもらう……すごい主人公っぽいじゃん!」

「……美少女?」


空は、そこのフレーズに首を傾げる

空にはどこに美少女がいるのか全く分からなかった

ちなみに、そのことが他の部分については同意することの表れになっていることに、本人は気が付いていない


「美少女の幼馴染って誰?」

「え?僕に幼馴染なんて一人しかいないよ?」

「……あたし?いやいやいや、あたしは全然美少女じゃないし……」

「空だよ?」

「へ!?」


どういう訳か、急に容姿を褒められた空は、顔を真っ赤にして動揺する


「そそそそそんなわけないじゃん!」

「わぁ、すっごい動揺」


巧はそんな空を見て楽しむように呟く

それを見て空は自分がからかわれただけだと思ったのか、頬を膨らませて抗議を始める


「たっくん!からかわないでよ!」

「からかってはいないよ。空が美少女なのは本当だし。学年でも美少女だって有名だよ?」

「う、嘘!」

「嘘じゃないって。僕が嘘ついたことあった?」

「……ほとんどない」


確かに、巧が嘘をついたことが無いわけではない

しかしそれは、サプライズを成功させるためとか、親に怒られない為であって、空をからかうための嘘をついたことはなかった

だからこそ、それに気が付いてしまった空はさらに動揺する

つまり、巧の言っていることは本当なのだ


「ていうか、今まで気が付いてなかったの?」

「気が付くわけないじゃん!」

「なんでさ。告白とか結構されてたんでしょ?」

「た、たまたまかなぁって……」

「そんなわけないでしょ」


今までは空が巧にツッコミを入れていたのだが、現在は逆になっている

しかし、空にはそれに気が付くほどの余裕がない


「そ、そんなわけあるよ!」

「いや、無いから」


珍しくまともなことを言う巧に、空も納得せざるを得ない状況になるが、恥ずかしさでその顔は真っ赤になっている


「……わかった。百歩譲ってあたしがその美少女だとして、なんでそれが主人公っぽいってことになるの?」

「え?ならない?」

「ならないよ!」

「なると思うけどなぁ……」

「なったとして、その話面白いの?っていうか、どういうジャンルの話なのか全く想像つかないんだけど?」

「え?読書大好きなのにわかんないの?ラブコメに決まってるじゃん」

「はぁ!?」


まさかの発言に、空はたまらず大声を上げてしまう

こんなに大声を出していては、明日声が嗄れている可能性もあるのだが、今はそんなことを考えている場合ではない


「ちょ!ちょい待ち!

 そ、その流れだと、あ、あたしと、た、た、たっくんが、ら、ラブコメ!?」

「そうなるね」

「『そうなるね』じゃなくて!!なんでそんなあっさりしていられるの!?たっくんに恥ずかしさとかないの!?」

「あるに決まってるじゃん」

「決まってないから言ってるんだよ!?」


いつの間にか巧に空が突っ込むといういつも通りの形に戻っていた

しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない

既に空は頭の整理が追い付いておらず、パンク寸前である


「そもそも、なんでそんな主人公っぽいって理由でラブコメになるの!?」

「空、それは違うよ。主人公っぽいからラブコメになるんじゃなくて、ラブコメになりたいから主人公っぽくなりたかったんだよ」

「まったく意味が分からない!!いっつも突拍子もない事ばっかりだけど、今回は色々飛躍しすぎてもう何が何だか分かんないよ!!」

「そんなに変?」

「そんなに変!理解不能!そもそも、何したいかわかんない!」

「え?今のでわかんなかった?僕は、空に僕の人生という物語のヒロインになってほしいんだよ」


その瞬間、空が完全にフリーズした

空の脳内では、何故か『ヒロイン』という単語が異常に繰り返されていて、ほとんど動いていない


「おーい、大丈夫?」

「……大丈夫じゃ、ない」


巧の質問にそう答えると、空は完全に思考停止パンクした

プツリと意識が切れて、体中の力が抜ける

そのせいで椅子から落ちそうになった空を、巧は抱きかかえるようにして受け止めると、何故空が意識を失ったのか分からずパニックに陥る


「ちょ!空!?大丈夫!!?」


そんな巧の声に、「良いから保健室連れてけよ」というツッコミを入れてくれる人はいなかった

いつもツッコミ役の空が倒れる弊害だった








「んん……」


空はそう小さく声を上げると、ゆっくりと瞼を開ける

すると、目に入ったのはあまりきれいではない天井

たまに部室で上を向くと目に映る景色と一致したそれで、今自分が部室にいるのだと理解した

ゆっくりと体を起こすと、今自分が椅子を数個並べたところに寝ていて、自分の体の上に誰かのブレザーがかかっていたことに気が付く


「あれ?あたし……」

「あ、起きた?」

「ひゃっ!?た、巧!?なんで!?」

「何でも何も、急に意識を失った空を寝かせたの僕だし」


巧が言ったことを、空は何のことか分からなかった

しかし、意識がしっかりしてくるにつれて、寝てしまう前のことを思い出す

そして、脳内に再生される『僕は、空に僕の人生という物語のヒロインになってほしいんだよ』という言葉


「ひゃあ!!?」

「ど、どうしたの!?」


顔を真っ赤にして、巧の制服のブレザーを抱きしめる空に、巧は慌てる


「どうしたもこうしたもないよ!たっくんが変なこと言うから!」

「変なこと?」

「あたしが空のヒロインとか言うやつ!」

「ああ、あれね」

「あ、あんな、こ、こ、告白みたいなこと!」

「え?告白だったけど?」


まるで何でもないように言った巧の言葉に、空はまたしてもフリーズする


「おーい、大丈夫?返事くれる?」

「へ、返事?」

「そ、返事。告白の」


告白の返事を待っているとは思えないほど軽い調子の言葉に、空は色々と分からなくなる


「ま、待って。整理させて」

「いいよ」

「まず、巧があたしに告白した?」

「そうだよ」

「いつから好きだったの?」

「ずっと前から」

「なんでそんなに余裕そうなの?」

「空は、僕のこと好きじゃないの?」


巧は、何当然のこと聞いてんの?みたいな感じで空に尋ねる

というか、その態度からは一切の不安を感じない


「……そ、そりゃあ、好きだけど……」


好きと面を向かって言えないのか、目線を斜め下にずらしながら小さな声で呟く空


「じゃあ、返事は?」

「こ、こちらこそお願いします?」

「ありがとう」

「え?今のでいいの?っていうか、これでもうカップルなの?」

「そうだよ?いや?」

「……全然嫌じゃない……むしろ嬉しい……けど!」

「けど?」

「なんか違う気がする!!」


そう、何か違う気がするのだ

そもそも、空的に言えば告白とは、もっとロマンチックな雰囲気で、お互いに恥じらいながらするものである

少なくとも、今まで空に告白してきた男子は皆恥ずかしそうにしていた

それに対し、今の巧の態度はあまりにも余裕すぎる


「違うかな?」

「違うよ!もっとロマンチックなものな気がする!」

「え?ロマンチックじゃない?このために、昨日から準備してたんだけど」

「準備!!?」


思いがけない巧の言葉に、空は今日何度目かの大声を上げる

それを、巧は少しショックそうな顔で見る


「ま、まさか、気が付いてなかったの?」

「ごめん、何のことか全くわからない」

「……そっかぁ、伝わんなかったかぁ……」


巧は、残念そうにそう呟くと、少し考える


「まず、時系列順に話すね?」

「う、うん」

「昨日、『普通の人は主人公に向いてない』って言う話したじゃん?」

「してたね」

「で、次に『普通じゃないことをすればいい』って言ったよね?」

「うん」

「そして、今日になって、『僕が主人公に向いてる』って話したよね」

「そうだね」

「それで、『僕はラブコメの主人公みたい』って話したじゃん?」

「あ、うんそうだ……」

「で、最後に、『僕は、空に僕の人生という物語のヒロインになってほしいんだよ』っていったよね」

「い、言ってたね」

「ね?昨日から全部繋がってるでしょ?」

「普通わかんないよ!!」


「まさかそこまで計算済みなんてすごい」と言われたかった巧は、空の言葉にショックを受ける

巧なりに精一杯考えた結果だったのだが、それは殆ど空に伝わらなかったらしい

無念である


「え?そ、そんなにわかりにくい?」

「うん。結構わかりにくい」

「えぇ……これ以上ないぐらいロマンチックな感じにしたんだけどなぁ……」

「これ以上ないくらい意味わかんなかったよ?」


ダメージを負った巧に、追い打ちをかける空

さらにダメージを負った巧は、「うっ」と声を漏らす


「でも、告白は、嬉しかった……」


小さな声で呟かれたそれを、巧は聞き逃さなかった

ガバッと効果音がありそうなほどの勢いで顔を上げると、空の両肩に手を置く


「本当に!!?嘘じゃない!?」

「う、うん。嘘じゃない

 ……そ、それより、そんなに近いと、そ、その……照れる……から、は、離れて?」

「あ、ごめん」


巧が両手を空の肩から離すと、空はバッと巧から遠ざかる

これ以上近づかれたら、心臓が持たない

きっと、変な悲鳴を上げて混乱するか、気絶するかしてしまうだろう

幼馴染としての距離感になれてしまって、それ以上の関係を望んではいても想像していなかった空には、急に幼馴染から彼氏兼幼馴染にジョブチェンジした巧は刺激が強すぎるのだ


「っていうか、たっくんに恥ずかしいとかないの?」

「え?恥ずかしい?」


空にそう尋ねられた巧は、訳が分からないといった感じで首を傾げる

それを見た空も、何故首を傾げるのか分からず首を傾げる


「……恥ずかしい?なんで恥ずかしいの?」

「え?だって、普通恥ずかしいモノでしょ?」

「いや、なんで?空に近づいたりするのって僕の望んだことだから、恥ずかしくなんかないよ?」

「いやいやいや、あたしだってそりゃあ、たっくんとあんなことやこんなことしたいよ?したいけどね、恥ずかしいっていうのは別でしょ?」

「え?別なの?」

「別じゃないの!?」


まさか、そこにも一般常識と巧の間で認識の差があったとは思っていなかった空は、大きな声でツッコミを入れてしまう

昔から色々とずれていた巧だったが、まさかそんなところまでずれていたのは、空にとって新発見だった

……まあ、巧自身にずれているという自覚はないのだろうが


「あのね、たっくん。普通の人は、異性と触れ合ったりすると、少しはドキドキするものなんだよ?」

「ふーん。そうなんだ。僕は空と一緒に居れればどうだっていいけど」

「確かに、あたしだってたっくんとずっと一緒に居たいけど、もう少し慣れるまで心臓が持たないから、さっきみたいなコミュニケーションはちょっと我慢してくれるといいなぁって」

「え……」


空の言葉に、巧がピシリと固まる

目を見開いて驚く巧に、空も驚く。普段はあまりしない表情を、まさかこんなところで見ることにらるとは思っていなかったからだ


「何で!?空とこの距離感だったら、付き合うまでと変わらないじゃん!!」

「色々違うよ!まず、彼氏彼女って肩書がつくじゃん!あたしを誰かにとられなくて済むじゃん!」

「だって、付き合ってなくても空が他の人のところに行くことなんてないんだから、結局肩書だけじゃん!」

「そこ!さっきから気になってた!何であたしが他の人のところに行くことはないとか言えるの!?告白してきたときもあたしが拒否するなんて微塵も思ってなかったでしょ!?」

「え?そりゃあそうじゃん。空の態度見てたらわかるもん」

「……え?本当に?そんな分かりやすかった?あたし」


巧の一言でテンションが一気に下がった空は、動揺しながらも、巧に尋ねる

尋ねられた巧は、こくんと頷いて肯定を示す

すると、空は顔を真っ赤にして目を見開く


「……ちょ……」

「ちょ?」

「超恥ずかしい!!まって!そんなにわかりやすかったの!?ずっと好きなのバレバレだった!?」

「うん」

「えぇ……恥ずかしい……」

「大丈夫。真っ赤な空もかわいいよ」

「何でこのタイミングで言うの!?嬉しいけど!!」


既に心拍数が有り得ないくらい高くなっている空は、なんかもう恥ずかしさが一周して変なことになっていた

その全ての元凶は巧なのだが、巧自身は全く気が付かない


「っていうか、本当に真っ赤だけど、熱でもあるの?大丈夫?」

「だ、大丈夫だか……ら……」


空がそう言い終える前に、空の前髪を上げて自分の額と空の額を合わせる巧

二人の吐息が重なってしまうほど近く。まさに目と鼻の先に巧がいるのを、一瞬の間の後に理解した空は、またしても思考を停止する

空はとても初心なのだ。しかし、そんな単語とは無関係な巧は、それにすら気が付かない


「うーん。熱いけど熱って感じでも……って、空!?大丈夫!!?」


完全に意識を失って巧に体重を預けてきた空に、今度は巧が慌てる

その肩を軽く揺すったり、色々と挑戦してみるが、空が起きる気配はない


「ちょ!また!?」


巧は、本日二回目の気絶に目を白黒させる

二回目だというのに、巧からは全く慣れた様子が感じられない


余談だが、この二人がキスをできたのは、この日から実に半年後のことである

キスの後に空が気絶したのは言うまでもないだろう




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突拍子もない男の子と、幼馴染の女の子のお話 海ノ10 @umino10

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