第2話 生存者
2022年6月21日正午すぎ
各テレビ局とラジオ局は通常放送を止めて緊急特別番組を放送しており、九州地方全域の封鎖とそれに関連するニュースを流している。辛うじて九州地方ではテレビが見れる上にインターネットも繋がっているのがせめてもの救いか…。
そのおかげで生存者は普段使っているノートパソコンを付けてインターネット放送をしている番組を眺めていたのだ。
『…お伝えしていますように、昨日午前7時35分頃に九州のほぼ全域で同時多発的に発生した大規模な暴動事件によって九州全域に点在している放送局との連絡が取れません。現在警察と自衛隊、そしてアメリカ軍が本州と九州との出入り口である関門橋を爆破しており九州の入り口である福岡県に入ることがでいません。もし、この放送を九州地方でご覧になっている方がおりましたら、安全を確保して外出を控えてください。現在九州地方全域で治安が急激に悪化しております…』
『航空班からも九州全域での飛行が禁止されており空撮ができない状況となっております。海上もアメリカ海軍と海上自衛隊、それに海上保安庁の艦船によって封鎖されたままです。我々取材班は北九州市を見渡せる此処、山口県の福浦金比羅公園からお伝えしていますが…見て取れるように湾港地帯の彼方此方から黒煙が上がっています!先ほども二回、大きな爆発音がありました。石油コンビナートで大規模な爆発があった模様です。こちらからでも爆発の閃光が見えています!爆発音や黒煙が彼方此方で上がっており…まるで湾岸戦争を思い起こさせるような光景です!』
『…首相官邸ではこの事態を受けて伊辺総理が自衛隊に有事防衛行動法を発令し、自衛隊に対して独自戦闘を含めた超法規的手段も許可するとの決定を下したことに野党からは非難の声があがっています。また今回の大規模暴動は中国や韓国で起こっている暴動に類似しており、国内の活動家団体が一斉に暴動を扇動した疑いがあるとして北海道、本州、、沖縄の活動家団体及びそれにかかわっているとされる野党政党系政治団体のメンバーに対して共謀罪適応条件を満たしたとして一斉に逮捕状を請求し、機動隊及び公安警察による大規模な摘発を行っているとの情報も入ってきています。我々夕陽テレビは伊辺政権の強引なやり方を断固として反対しており…』
「どこも報道している内容は同じか…」
八尋雄一(18歳)久留米市内の高校に通うごく一般的な高校生である。
朝起きたら彼の家族が忽然と消えていた。
隣近所も、国道をいつも法的速度を無視して飛ばしている車も放置されている。
学校の友人や親戚とも連絡がとれない。
街全体が閑散としている。
遠くで車のクラクションの音が断続的に聞こえる程度だ。
携帯の電波もアンテナが1本ギリギリ立っており、wifiの接続もすこぶる悪い。
だが、たった今wifiの電波が途絶えた。
中継局がやられたのだろう。
画面には「地上デジタル放送を受信できません」と文字が出てきた。
そしてインターネットのアクセスも遮断されてしまったのだ。
八尋は夢を見ているのではないかと疑う。
だが、現実は非情である。
「パソコンもスマホもおじゃんだ…どうすりゃいいんだ…」
情報が入って来なくなった。
手元に入ってきた情報だけで考えなければならない。
八尋はA4ノートを手に取ってボールペンで殴り書きながら状況を整理しようとする。
何も見いだせないままよりは遥かにましだ。
・朝起きた時には家族は消えていた。
・隣近所に助けを求めたが誰もいない。
・スマホで親戚や友達に電話やメールを送ったが返事は無い。
・テレビでは大規模な暴動事件が多発して起こっていると報道されている。
・放火や略奪が起こっているようだ。
・特に福岡市がかなりヤバイ状況らしい。
ノートに書きだしたが、それでも異様な事態に置かれていることを八尋は認識する。
本当にどうしてこうなった?!
ホラー映画を見ているようで気味が悪いと感じる。
まだ電気はついているが、いつまで持つか分からない。
家族が彼だけほったらかしにして避難するとも思えないし、何が起こったのだろう?
「…ひとまず飯だけでも食べよう…」
八尋は昨日の夕飯に作ったチャーハンの残りをレンジで温めて食べることにした。
一階に降りて冷蔵庫からキンキンに冷えたチャーハンをレンジに入れて65℃で2分ほど温める。
出来上がったチャーハンをテーブルに置いて戸棚からスプーンを取り出す。
「さーて食べるか」
チャーハンの味はまずまずだった。
腹が減っていたこともあり、八尋はあっという間にチャーハンを完食してしまった。
これからどうするか。
目標を立てないといけない。
警察に消防、それに自衛隊に救助してもらうには…。
コンコン
誰かがドアを叩いている?
気のせいか?
コンコンコン
いや、気のせいではなかったみたいだ。
誰かが八尋の家のドアを叩いている。
八尋は駆け足で玄関に向かう。
もしかして暴徒か?
八尋は不安になりながら玄関に設置しているカメラを確認する。
カメラに映っていたのは八尋の通う高校の近くの専門学校の制服を着て、髪をツーサイドアップしている女の子だった。
鞄を持っているが、鉄パイプなどの危険なものを持っているようには見えない。
八尋との面識はないはずだが…どうしてインターホンを押さずに俺の家のドアを叩いているんだ?
周囲には人はいない。
もしかしたら脅されているのかもしれない。
インターホン越しから八尋は女の子に問いかける。
「誰だ?」
問いかけに驚いた様子だった。
口元に手をあてて、囁くように言った。
『………すみません、ドアを開けてもらえますか?』
「…その前に一つ質問に答えてください。あなたの名前と…あなたの傍に他の人もいますか?」
『………山崎煬子です………いいえ、いません…みんな消えてしまいました………』
「………わかりました。ドアを開けますので少々お待ちください」
八尋は慎重に、ゆっくりとドアを開けた。
Nine State Of The Dead スカーレッドG @kemono_fm192hz
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