東京ルール
なんとか乗り越えて、乗り換える駅まで凌いだけど、またすごく混んでる電車だったらどうしよう。降りようとすると、目の前のお兄さんも立ち上がった。
あれ、行き先、同じ?
人混みを分けて車両を出たものの、昨日とは違う号車に乗ったもんだから軽く迷子になりそうだ。すると後ろから声がかかった。
「大丈夫ですか?」
振り返るとさっきのお兄さんだった。
「大丈夫……です」
「もしかして次、都心部行きの準急乗る?」
「はい、そうです」
お兄さんは行き先が一緒だった。私の高校は、お兄さんの大学の附属高校だった。大学生だから勉強していたのか。
次の電車はそんなに苦にならなかった。お兄さんとずっとしゃべっていた。すると、さっきの電車で泣いていたことを聞かれた。恥ずかしい、泣いていたこと、見られていたなんて。
「すみませんって言ったのに、誰も何も言わないし……あんなに人が多いなんて知らなくて……」
「ああ、東京の人って、他の人と話さないからね……」
「そうなんですね。電車に乗るときも、断りもせず押してくる人がいてびっくりしたんです」
「なんだろうなあ、すみませんさえ言わないのは、東京だけのルールだと思うよ。俺もこっち来たときは慣れなかったよ」
「東京の……ルール……」
電車の中のクーラーが少し心地いい具合に効いてる。お兄さんの髪の毛が、涼しそうに揺れている。あの中に、きっとたくさん難しい知識が入っているんだなあ。
駅に着くと、お兄さんは私を出口まで案内してくれた。昨日練習したのに、知らないふりをした。
「俺は右の出口だから、ここから一人で行ける?」
「うん、他の生徒も歩いているし、大丈夫」
「じゃあね」
「ありがとう」
お兄さんはそういうと行ってしまった。まわりに変に思われない程度に、その人の後ろ姿を眺めていた。
ああ、どうしよう。あの人の名前、聞いてない。今走ったら間に合うけど、そんな恥ずかしいことできない。でも、また同じ電車に乗ったらいいのかな。
やっと人混みから解放された。ところどころに散りかけの桜が咲いている。同じ格好をした生徒が歩いていた。新しい鞄は、新しいまま。髪を少し整えて、私はお兄さんが行った方向の反対へ歩き出した。
一期、一会。 坂町 小竹 @kotake_s
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