第6話 2つの気がかり②
私には兄がいます。
幼い頃から大人の話にはしっかり従い、聞き分けが良かった兄。
好きな遊びを見つけると、何時間でもおとなしく遊び手がかからなかった兄。
興味を持った事はとことん学習し、子どもながらに「博士」と呼ばれる程だった兄。
私は兄とは正反対の、自己主張が強く手のかかる子どもだと、幼い頃から繰り返し両親に批判されて育ちました。
すぐ飽きて違う遊びを始めるのは異常。
しつこく大人と関わりたがるのは異常。
気を引きたくて騒いでしまうのも異常。
楽しい場所で、嬉しくて走り回ってしまうのも異常。
「この子はちょっとおかしい。お兄ちゃんと違う。普通じゃない」
私は異常な子だと言われ続けて大人になりました。
大人になってから、幼児期の私のやっていた事はいわゆる「普通の子」が普通にする事だと分かりました。
兄が、発達障害であると診断されたからです。
小学生時代から一貫して成績の良かった兄は、誰もが名を知る有名私立大に入学しました。
大学生になってからの兄は、人間関係でつまづくようになり、心身の健康を崩しました。
精神科に通院しながら、5年かけて何とか大学は卒業。
しかし卒業後の進路が見つけられず、そのまま10年以上、兄は引きこもる事になったのです。
兄に診断がついたのは、私が結婚して上の子が生まれた後でした。
それまで兄は引きこもりながら精神科には定期的に通っていたものの、はっきりとした診断名はついていませんでした。
あるとき転院したのがきっかけで、検査を受けた所、(当時の診断名で)アスペルガー症候群と、二次障害として不安障害があると診断されました。
アスペルガー症候群。知的障害を伴わない自閉症。
幼い頃の兄は、アスペルガーの特性によって「おとなしく手がかからない子ども」だったのです。
診断には私たちの母も同席し、子ども時代のヒアリング等したそうですが、
母が、妹の方が騒ぐし言うこと聞かないし、妹がおかしいんだと思ってましたと医師に伝えた所、
「妹さんがしていた事は、普通のお子さんが誰しもする事ですよ。第一子がおとなしい特性だったから、それが当たり前と思ったのですね」
医師はそう答えたそうです。
「普通の子」の概念がひっくり返された私は、まだ小さい上の子の発達の様子を注意深く観察するようになりました。
加えて、発達障害は遺伝的な影響も無視できない事。
それもあり、発達というキーワードは常に心の片隅に置いて育児をしていました。
目が合う。クリア。
あやしたら笑う。クリア。
名前を呼んだら振り向く。クリア。
大人の真似をする。クリア。
ぬいぐるみをお世話して遊ぶ。クリア。
等々…
それらの観察は下の子が生まれた後も、続きました。
産前産後トラブルや小さめに生まれた事など、上の子より心配な点も多かったので、より気にかけていたように思います。
下の子も順調にクリアしていきました。
1才半健診までは。
DQ66からの育児日記 路地ゆきこ @tsuki-hana
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