夜明け

青羽根

第1話

夏草の中、僕はたたずむ。


鼓膜を圧迫するような無音が、ふと、緩んだ。

僕は空へと目を向ける。

頭上で冷たく瞬いていた星々はその力を失い、黒繻子の天蓋は透明な青味を帯びてきた。

それは次第にグラデーションとなり、眼前の東の空は淡く白み、背後の西の空は夜を残した。


不意に東の地の果てに、朱金のほむらが走った。

それは一点から生まれいで、たちまち左右に腕を広げ、そして放射状に赤銅しゃくどうの矢を十本放った。

いつのまにか吹き出した風に、産まれたての雲が千切られていく。

影の灰色だったその一片の雲が赤銅の矢に貫かれ、朱に照り映えながら消えていった。


次には金の矢が二十本放たれた。

そのやじりを追って鳥が飛び立ち、同胞へ目覚めよと歌いかけた。

応える声は螺旋らせんとなり、十重二十重の賛歌となった。


やつぎばやに銀の矢が五十本放たれ、大気に熱を呼び覚ました。

どこかこごっていた名もない恐れはすっかりと熔けだし、意味のないざわめきを残しながら下草の陰へと流れ落ちた。


そして最後に白金の矢が、那由多なゆたの数で降りそそいだ。

その切っ先は全てを射抜き、僕の瞳から思考までを白く焼き切った。


気がつけば、輝く銀のメダリオンは全てのしがらみを振り切り、蒼天の頂へと走りだしていた。

振り向けば、夜の中で僕の背を守っていた影の塊が、新しい光の中、みどりの葉を振りたてた潅木の茂みへと変わっていた。

したたかな生命力はその葉の色を燃え上がらせ、地上の玉座ともくさせた。

「ありがとう。」

僕は肩のスリングを揺すり上げ、相棒たるAK47の重みを感じた。

喉元を締め付ける不安と、僅かな安寧の夜を生き延びたのだ。

「また、必ず。」

僕は玉座に拝礼し、そして一歩を歩きだした。

前に広がる敵の銃口と、背後に控える味方の銃口をすり抜け、今日一日を生き抜くために。

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夜明け 青羽根 @seiuaohane

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