少女は館からの脱出を決意する
海星めりい
少女は館からの脱出を決意する
「準備は万端……あとは決行するだけ。でも上手く行くのでしょうか」
いえ、落ち着くのです私。
この時のために準備してきたのだから大丈夫なはず。
「まずは、気付かれにくい魔法を使いましょう『
これでよく見えますね。壁の向こうには人の姿は無いようです。
ですが、入り口には厳重な錠がかかっています。私をここから逃がさないためですね。
しかし、この程度のことは想定済みです。少しだけ開く隙間から、
「『
私の指先から放たれた風の刃が錠を切り裂きました。
これで部屋から抜け出られますね。
ドアを開けると、中途半端にぶら下がっていた錠が床に落ちそうになってしまったので、私はそれを見事に受け止めます。
抜かりはないのです。
廊下に出た私は、未だ効果の続く瞳で周囲を伺います。
通路の先には巡回中の兵士が三人。
しかし、巡回のパターンは知っています。
あとはそれらを上手く組み合わせ、姿を見られないように移動します。
ここの兵士三人が見回っている区画を抜ければ、脱出まではあと一息で……!?
これは予想外な所からの伏兵です。
「失礼いたしました」と、メイドが一人、この先の部屋から出てきました。
今は、お辞儀をしているため見つかってはいませんが、彼女達の待機場所は私がいる方向です。
ここは一旦下が……れませんね。
戻ろうと思ったのですが一人の兵士が、私が先ほど通ってきた通路から歩いてきています。
見事に挟み撃ちです。
このままでは間違いなく見つかってしまいます。
悩んだ私は、横にある窓から飛ぶことにしました。
下にクッションなどはありませんが、ふかふかの芝生や植え込みがあるので大丈夫でしょう。
というか、見つかるよりはマシです。
「とおっ!」
覚悟を決めて目をつむったまま飛びました。あけたままは流石に恐かったのです。
衝撃に身を任せ……と思ったのですが、あまり痛くありません。
しかも、何処かからうめき声のようなものが聞こえるような……?
視線を下に落とせばその理由が判明しました。
「あ、あら……これはお兄様。どうしてそのような場所に」
「……いいから早くどいてくれないかい?」
服を払ったお兄様は私を冷たい目で見てきます。
「で? 一体何をしていたのかな?」
「淑女になるための特訓です」
「淑女というのは私が仕事で王都に行っている間に定義が変わったようだね」
「そんなこともあるのではないでしょうか」
「ほう?」
お兄様が頷いて視線が離れた隙に私は一目散に逃げ出します――
「では私はこれで――ぐえっ!? しまってます! お兄様! しまってます!!」
しかし、回り込まれてしまいました。
「ん? 良く聞こえないな? 君には父上と母上を交えてしっかりお話をしなければならないね」
そのまま、お兄様に猫のようにぶら下げられたまま運ばれていきます。
私、フィリシェイン・ラ・ユーディスの家出は計画案三日、実行僅か五分で幕を閉じたのでした。
くすん。
少女は館からの脱出を決意する 海星めりい @raiki
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