オープニング……の続き 1
事故現場から少し離れた、廃ビルに男女の二人組がいた。
男はだぼったいTシャツを着て、 短パンという年相応とは言い切れないラフすぎる格好。 もともと癖っ毛であろう朱色の髪が特徴的ではあるが、独特の馴染みがあった。
女の方は味っ気のないスーツ、しかも男モノの真っ黒なものを着ているのだが、もとの顔立ちが凛々しいのか、さほど違和感はない。 荒々しく結ばれた黒髪のポニーテールも雑、という印象は受けない。
「どうしよう、ねえどうしよう、ボス」
「うっさい! 今考えてるから、集中させて! ……ほんとこれどう収集つけんのよ」
もう泣く直前の声のボスと朱色の髪をした青年は一つの双眼鏡を二人で覗いていた。
その先には知りもしないリア充の死体とうちの幹部、シラヌイの事故現場。
『英雄を否定し撲滅する会』の幹部シラヌイは自害した。
大事なことだから、もう一度言おう。
神は死んだ。
「腹、斬っちゃいましたね」
呆然とした表情で夜空があるはずの天井を仰ぐ。
「そう……だな」
「知ってました? 切腹って、腹切っただけではすぐ死ねないんです。 ですから、本人が斬ったのを確認して執行人的な人が首チョンパして、いわゆる川流しに移るんです」
「で、それが今の危機的状況になんの関係が?」
イライラしてるのを気にせず、真広は続ける。
「いえ、特に関係は……。 そうそう、『首を洗って待ってろ』という台詞は、首チョンパするときに刀が汚れてはならないという武士道精神に溢れたものが語源でして、」
「だーっ! だから、貴様は何が言いたいんだ! あれか? 腹切っただけでは多分死なないよっていう慰めか!?」
ヤケ口調でまくしたてるボス。
「あー、はい。 多分死んでないんじゃないですか!」
「んなわけある……、はあ。 まあいいや。 ねえ、悪いけどあの死体。 回収してきてくんない?」
顎に指をあて、確かめてこいと言わばかりの表情のボス、心なしかイキイキしている。
「嫌です、あいつ復活したとしても一週間は引きずってアジトにも顔出さなくなりますよ。 こういう部下の失敗は上司がやるもんでしょ?」
「私だってヤダよ。 勝手にあいつがバーサクしたんじゃん」
「うわあ、部下に命令しておいてそれはないですわあ」
わざとらしく引いてみせる青年の頬をボスが引っ張る。
「私は真広のヒーロー枠だけ確保しといてくれって言っただけだ!」
「ホ、ホフウ……! はあはは、ほんはにやはひはったんはふへ!!(ボ、ボスウ……! あなたはそんなに優しかったんですね!!)」
「う……、うんまあ。 働きに応じて報酬としてな、うんやってもな……いいかと」
実はそれを餌にバリバリ働いてもらおうと目論んでいたとは、絶対に言えないボスは、真広の頬から手を離す。
「なら、回収行ってきます! あの、リア充のも取ってきましょうか? 一応能力を持ってるみたいですし」
「あ、あーうん。 頼まれてくれ、リア充は……うん、いいよ持ってこなくて」
輝く目をした真広を直視できないボス。
「そうですか? ヒーロー側への揺さぶりにもなるとは、思うんですけど……」
「いや、いい! ほんとに大丈夫! うち怪人いるし、な!」
怪人がいることでなにがヒーローに関わってくるのかよく分からない真広は「はいっ! お任せください!」と元気よく返事をして、廃ビルから違う意味で事故現場なシラヌイのもとへと駆けていった。
しばらくしてから、下で黒のワゴン車に乗り込む真広の姿を見つける。
真広はボスに見られていることに気付き、ぶんぶんと手を振り、ボスもまた申し訳なさそうに手を振った。
数分して満足した真広はワゴン車を現場へと走らせた。
廃ビルの五階、一人で真広の帰りを待つボスは謎の使命感から双眼鏡でずっとワゴンを追いかけていたという。
エイユウノススメ 良音 @mizuiribotolu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。エイユウノススメの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます