10 ユーレ:暗渠の集う、その先へ

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サプレマに続いて入室した彼は、

前回会ったときよりも少し痩せたように思いました。

形どおりの労いの言葉をかけてから、サプレマから報告を受けました。

残念ながらフリューゲルに至ることはできなかったこと。その理由も端的に。


サプレマの声を聞きながらも私は、

後ろに控えた連れの様子ばかり気にしていました。

彼はこんな、値踏みをするような目で人を見ていただろうか。

私を奥にして部屋の両翼に並んだ面々を、彼が知らないわけはないのに。

少しの違和感を感じました。それが顔に出ていたのかもしれません。

不意に彼と目が合い、私はそれを逸らすことができませんでした。

彼が先に視線を落として、私はなぜかとても、ほっとしたように思います。


いくつかの質問を受け、サプレマは全てに淡々と答えました。

その姿は、話す内容が期待外れのものであったにも拘らず、

送り出したときよりもずっと、頼り甲斐を感じさせるものでした。

この道行きは彼女に、得難い経験をさせたのだと思いました。

そしてその間、私は何をしていたのだろうとも。

私は彼女には、質問をしませんでした。


彼女たちの留守の間も、私の耳に入る情報は途切れませんでした。

ふたりのアドラでの道行きも、つぶさに報告されました。

彼らの出国後、ある軍人からもたらされたのは、

アドラ首脳が崇拝している者と先代サプレマとの繋がりです。

またある議員からもたらされたのは、

アドラの重要な立場にある竜とサプレマの竜との繋がりです。

そして軍の責任者からもたらされたのは、

サプレマと、ナイト=シュッツ・コンベルサティオ卿との繋がりです。

そこから彼らが導き出したのは、ふたりとアドラとの癒着です。


昨今、再び警戒すべき動きをしているアドラに対抗するため

まずはふたりを遠ざけるべき、というのが議会の意見でした。

抗うすべのなかった私にできることは、ふたりに

私が命じるのは行き先だけであると述べて、

そしてそれを敢えて私のプライベートな部屋で伝えて、

私の意思が及ばぬ話であることを匂わせつつ、

彼らが無実であることを信じ、送り出すことだけでした。


この後予定されているのは尋問です。

サプレマの竜の、フリューゲルでの行いに照らせば

彼女は直接は関係ないのだというのが議会の結論のようでした。

ですから彼らはこの後、その連れだけを残させ、

ことの次第を問いただすのだ、と聞いています。


私が彼を守ることができるとすれば、

それは私が与えた彼の称号でだけです。

軍における地位や指揮関係を離れ、

国王直属のナイトであるということだけが、

その処分に国王の許可が必要だということだけが

私が彼に与えることのできる、唯一の盾です。


いやな予感がしていました。そう——とても、何か、嫌な予感が。

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