7 茜の海

0 Frigga Ⅱ // crr_n; hybrid

結局スペクトを離れるのはもう少し待つことになった。

皆それぞれに、済ませたいことがあったから。


まずゼーレ。

プレトに会ってくれば、と言ったけれど、

あまりそれには乗り気じゃなかった。

気持ちは分かるような気もする。

たぶん、長い間に作り上げた彼女の中の理想像が、

実際会ったのと違ったら。それを確かめるのが怖い、

そういう感じなのかな、と思う。

だからそれ以上勧めはしなかった。

もちろんプレトの方にそんなことは伝えてもいない。


あいつは今、どこよりも目立つくせに誰にも見えないところで、

何を考えているのかよく分からないけれども、ひとりでいる。

この都市で一番高い建物の、屋上だ。

敢えて竜の形で降り立ったのは、何か意図があるのかもしれないけど、

それはおいおい教えてもらおうと思っている。

急に馴れ馴れしくするのも、どうも気が引けたので。


次にそあら。

プレトが出てきた後に燦から呼ばれていった。

あの兄妹がどういう話をしているのかはよく分からない。

でも、これまでのそあらのことを思い出して、

それを何か悪いふうに疑う、ということは全然する気にならない。

彼女がしたいことを、これまで全然気にしてこなかったから、

不甲斐ないわたしの面倒を見る以外のことをしたいなら、

それを許せる状態になれるようにがんばろう、と思ったりした。


それからヴィダ。

そあらを通じて国の状況をいろいろ聞いているらしく、

難しい顔をしていることが増えた。

でもその理由を聞いても教えてはくれない。

本人は、別に難しい顔なんかしていない、と言うし。

こいつはこいつでいろんな肩書きと、

それに応じた仕事と責任とがあるから、

そこに余計な重荷をくっつけずにおくくらいしか、

こちらでできることはないのだ。

やっぱり不甲斐ないと思うものの、それはそれで仕方ない。


わたしはそういう、未熟な人間だ。

でも、わたししか知らないことも、ある。


せっかく時間があるから、こないだ食べた美味しいものを

あいつにひとつ紹介してやろう、と思う。

今日もあの残念な食堂で、嘘みたいな量の砂糖を入れていた。

これまで気がつかなかったし、もしかしたら本人にも自覚はないかもだけど

たぶんあいつは、甘いものが相当、好きだ。

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