6 碧の森

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同僚の遺体が目の前に転がっている。

遠くで爆発の音が聞こえる。

すぐ背後で火が爆ぜ、目の前の扉は吹き飛んで、閉じることはもうない。

流れ出した培養液が広がっている。


それでも、外に見える海は今日も静かだった。

外と内を仕切るものも既にないというのに、風の音も、波の音も届かなかった。

ここはある財閥総裁の別荘ということになっているから、

私有地である付近一帯には誰も立ち入らない。

こんなに穏やかなのなら、一度くらい外に連れ出してやればよかった、と思った。


その日も空は、そして海は、あまりに青く、あまりにいつもどおりで、


初めてそれを、残酷だ、と思った。

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