4  verde e amarelo:彼と彼女

0 Frigga // crr; unauthorized

翠嵐に会ったのは、たぶん七歳か八歳か、そのくらいのときだったと思う。

グライトを離れて、まだそんなに経っていない頃。

見上げた視界を埋め尽くすような大きな翼を、三対持った竜だった。


表面はざらついて、砂のよう。

緑色の目はくすんだ体色のなかにあって、とても鮮やかで目を引いた。

木立の少し開けたところで、がっしりした足で地面をとらえ、

首をもたげたまま、こちらを見下ろしていた。

舞い落ちていた木の葉も、飛び立った鳥も、何もかも止まったままで、音もない。

少し前のことを思い出して思わず尻もちをついた。

ざくざくと枯葉を踏む音が聞こえた。


振り向いたら、そあらが立っていた。

どうなさいますか、と聞かれた。

そう聞かれるということは危険はないのだろう、

そうは思ったけれどもやっぱり一度はためらった。

その一、二年前に同じようなことがあって、

触りたいと思って伸ばした手が、あんなことを招いたから。


あんなことを。そう思った瞬間に、風が巻き上がって思わず顔を背けた。

もう一度前を見た。

その竜はまだ前に、ただ首をこちらに伸ばし、ひたと俺を見ていた。

その目がまるで、嘘のように自信に満ちていたから、

心配するな大丈夫だと言っているように見えたから、

ほんとうだな、とそいつを睨んだ。

そいつは、約束しよう、と言った。嘘は言わないと。

そうして俺は翠嵐の依り代になった。


ゼーレと初めて会ったときは、自分ひとりだけだった。

彼女曰く、彼女が現れたのは、……いや、忘れた。

とにかくそあらより十何年何ヶ月何日と何時間何分何秒か後なのだそうだ。

その彼女の言葉を信じるなら俺が十七のときぐらいなんだと思う。

いつだったのかということは、言われればそうという程度で

正直自分では、はっきりとは覚えていないけれど、

彼女が名乗った名前は、竜に馴染む言語とはまったく違う言葉だったから、

変わったのが来たなあと思ったのは、よく覚えている。


実際彼女は他の竜とは違っていて、

契約をしても実体を持つことはできないのだと言った。

代わりにと言ってはなんだが、その分とても「軽い」のだ、とも言っていた。

当時はその意味はよく分からなかったけれど、

今はそれが彼女が食う「容量」のことだ、と理解できている。


聞けばそれは彼女が生まれた経緯に理由があるのだと彼女は言うけれど、

それを彼女は嘆くことも、恥じることもないように見えた。

それが自分に誇りを持っているようで、羨ましいと思った。

だからそれを、自分の一部にしたい、と思った。

彼女と結ぶのにはまったく躊躇しなかった。


翠嵐にしろゼーレにしろ、俺の知らない過去を通り抜けてきた。

彼らの今は、その過去を積み上げた先にある。

ふたりともそれを、話そうとはしない。

だから、聞かない。


知らないことを確かめるのは、

その「知らせない」理由を知ってしまうのは、

怖いことだ。

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