3 ドロッセル:それは炎でありつつ
0 seele // #ffcb3d-El
ここらへんまで来るのは、三十年と三か月、それから五日と八時間ぶり。
マスターと契約をする前にふらりと上を通ったとき以来だ。
もうずっと前のような気がする。
生まれてからの時間を考えればそれは、ほんの、ほんの少しだけれど。
国境を越えて、荒野を過ぎて。町をひとつ通った。
今入ろうとしているのは、アドラ三大都市のひとつ、ドロッセル。
ここはこの国の経済拠点、ユーレには導入されてないような
――というより、この時代には珍しいくらいのシステムが沢山入っている。
その機材やシステムがどこから出てきたのかは、
たぶん、というレベルでしかわからない。
そしてそれを深掘りしたいとは、あまり思わないけれど、
何はともあれ私にはすごくうろつきやすいし、ありがたい。
役にも立てるかな。そう思うと不謹慎だけどウキウキもする。
日々交わされるやりとりは膨大。
ちっちゃな子どもの買い物からどこかの国家予算単位の売買まで。
その全てのデータを集積しているサーバーの処理能力は、
私が生まれたころの技術力と遜色ない。
管理者はだれだろう、と思う。人も物も溢れている。
ドロッセルを統括するのはラケシス一族。そしてその竜、
この国では建国の祖、教主ドラクマの契約竜三柱を、
その子孫三家が代々引き継いでいる。その、ひと組。
ラケシス家の現当主はもう相当の高齢。
寝たきりの状態とも噂されている。しかも後継ぎはいない。
だからここの統治は実質、熾がひとりで統括していることになる。
そもそも急進的なアドラという国の中にあって、
ドロッセルは穏健派として知られている。
ほかの都市も今は、全てが急進的というわけではないけれど、
平和を望むスタンスを、統治者自ら積極的に明確にしているのはここだけ。
きっとそれは、経済的な余裕に裏打ちされたものなのだろう。
国民性は完全には拭い去れないけれど、それでもここの空気はまだ居心地がいい。
最初に通る大都市が、ここでよかった。
しばらく情報を集めてから先に進むことになった。
この先も何事も無く、目的地まで行けますように。
そう願ってしまうのは無意識のうちに、
何か起こることを予感しているせいかもしれない。
でも、どうか。
今、行き交う人にまぎれて市内に入る。
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