2 メーヴェ:風と海が呼ぶ町

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この仕事についてから、そこそこの経験をしている。

ちょっと異様なペースで昇任してしまったので、尚更。


任官したころには既に、

国境警備に出ればほぼ例外なく小規模戦闘には遭遇する時期で、

サプレマに救援要請をすることも以前よりだいぶ増えていた。


とにかく勝ちにこだわるタイプの指揮官の下につき、

どうもそりが合わないなと思っていたころ。

それが顔に出ているというわけのわからない理由だったように思う。

最前線に放り込まれた経緯はそれ以上よく覚えていないけれども、

とにかくむかついたことと重傷を負ったことは覚えている。

案外冷静なもので、自分の血は他人のそれより感慨がなかった。

ただ、これはたぶんやばい量だなと思って、そこまで。


次に目が覚めたときには医務局のベッドの上だった。

それまでは見舞いでしか来たことがなかったから、天井なんか見たこともなかった。

室内は白で統一されていたし、明るい時間でもあったから、

自分の包帯に滲む赤が妙に目立って、やたら気に障った。

最低の気分だった。一緒に放り出された連中はたぶん生きていない。

勝ち負けなんかクソ食らえだ。死んだら意味がないというのに。


とにかく施設の人間に、起きたぞ診ろよと知らせないと。

てっきり一人だと思っていたから、

それはもうグズグズと悪態をつきながら無理やり起き上がった。

でもここの人間に俺の機嫌を取らせるわけにはいかないから、

不機嫌はここまでだ。最後にチクショウ馬鹿野郎と、口に出した覚えがある。


馬鹿はどいつだよ、と言われて思わず振り返った。

女の声だ。振り返るだけで体中痛くて余計腹が立った。

しかもひとりだと思っていたのに。

どこまで声になっていたかはわからない。全部聞こえていた?

ひたひたと底の薄い靴音がしてベッドサイドで止まった。


上官のいうこと聞けよともっともなことを言ったのは、

同じ日同じ場所に呼ばれていたサプレマだ。

よりによってこいつかと思った。

こいつにだけは若造だと思われてはいけないのに。


お前馬鹿だなあと、改めて言われた。

言われなくてもわかっている。

しんどいふりをして、顔も上げなかった。

でも、全員生きてるよ、と言われて思わず顔を上げた。

は? と声が出た。


全員生きてる。そんなわけがあるか。あの状況で?

嘘だろと聞いたら、嘘なんかつかない、お前すごい馬鹿だなと。

何回俺を馬鹿呼ばわりするんだこいつは。

そのご尊顔を拝見してやろうと思ったら、

そいつはなぜか俺よりずっと泣きそうな顔をして立っていた。

散々人を馬鹿だ馬鹿だと罵っておいて、

医者呼んでくると言って出て行ったきり、もう戻ってこなかった。

いつからそこにいたのかは、知らない。


あとで聞けば、俺の上官がサプレマにした指示は、

俺を含めた友軍の犠牲を厭わないものだったそうだ。

つまり、もうよく覚えてないけど、俺はこいつの友軍殺しを阻止したわけで、

後日馬鹿呼ばわりについて文句をいったら、あれは褒め言葉だったのだと返された。


ありがとうは言われていないけれども。

まあでも、分かる分かる。

機を逸すると、言いにくくなるからね。

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