10 「信用できないのは僕だけ?」



「ちょっと、今君のことどうでもいいからさ。後でいい?」

「いいわけあるか!むしろこのタイミングだから言ってんだよ!この鈍感野郎が!!」

「ごめん、なんのことかさっぱりわかんないんだけど。」

「わかんないわけあるかぁぁぁぁあああああ!おい夕!ちょっと俺と向こうでじっくり話そうぜ!」

「え、やだけど。」


 だって、こんな人と一対一で話す理由が全く分かんないし、話すメリットもない。変人が移ったらどうしてくれるんだ。


「拒否るなよ!!ここは男同士の友情が発生する場面だろ!」

「友情――?」

「なんのことやらみたいな顔すんな!!」


 いや、実際なんのことかわかんないし、友情もなにもないと思うんだけど。だって、一方的に絡まれてるだけだし。このテンションについて行ける気がしないしね。一緒にいて疲れる友達なんかやだ。


「朝日さん。暑苦しいから別のとこ行こうか。」

「うん。」


 そう頷き合い、石橋君のいるところと別方向に歩き出したものの、石橋君が先回りして進路を塞いできた。避けて通ろうとするものの、上手いこと道を塞いでくるので一向に通ることができない。仕方ないので、少し話を聞いてやることにした。


「はぁ――なんの話があるの?」

「お、やっと話を聞く気に――ちょ、アイアンクローしようとするな!」


 面倒になりそうな気がしたからアイアンクローをしようと構えたところ、石橋君はなにかを察したらしく慌ててそう言ってきた。お腹空いてるから、簡潔にしてほしい。


「あのな、二人ともまだ昼食を食べてないんだろ?」

「――なんで知ってるの?」


 朝日さんはあからさまな嫌悪感を出しながら、石橋君に向かってそう言う。まるでストーカーでも見るような目つきだ。僕なら、朝日さんにあんな目をされたら回れ右をして帰りたくなるかもしれない。その点、動じない石橋君は少しすごいと思う。


「なんか店を探してるように見えたからな。それで、一つ提案なんだけどよ。」


 石橋君はそう言うと、朝日さんの冷ややかな目にも負けずにニヤリと気持ちの悪い――もとい、ニヒルにしようとして失敗したように笑う。


「俺のおすすめの店、案内してやろうか?」

「――石橋君の提案が信用できないのは僕だけ?」

「いや、わたしもできてない。」


 僕の言葉にうんうんと頷きながらそう言う朝日さん。それに、石橋君はかなりショックを受けた顔をする。


「あのな!朝日さんもいるのに変な店を進めるわけないだろ!?俺の両親の店だよ!」


 石橋君の両親――?こんな変な人の親――?

 絶対やばい人じゃん。いや、そう決めつけんのもよくないか。石橋君が突然変異の可能性もあるし。むしろ、その可能性のほうが大きいと思う。だって、石橋君と同レベルの変人なかなかいないから。


「――一般人の店?」

「ちゃんと一般人!」


 そう主張する石橋君に、僕と朝日さんは顔を見合わせる。今、僕の中では石橋君についていくリスクと、今のお腹の空き具合が天秤にかけられている。恐らく、朝日さんの中でも同じ迷いが生じているのだろう。


「朝日さん、どうする?」

「んー、正直迷う。」

「だよね。お腹は空いてるんだけど――」

「この人のおすすめだと考えると――」

「悩むよね。」

「二人とも、ほんと俺に対する風当たりが強いな!?」


 それは仕方のないことだと思う。だって、そう言われるだけのことをしているからね。たぶん、普段から不躾な視線を浴びている朝日さんの嫌悪感は僕の比じゃないだろう。今お腹が空いていなければ、天秤にすらかけられてなかった。


「ほんと、どうする?朝日さんに任せるよ。」

「うーん――」


 そう言って難しい顔で考え込む朝日さん。それに石橋君はさらにショックを受けたようだが、僕は完全にスルーした。いちいち反応する必要すらないからね。


「仕方ない。背に腹は代えられないから、行ってみよう。」

「わかった。なにかあったら、僕がどうにかするよ。」

「俺と違って両親はまともだよ!!」


 石橋君はそう言うものの、信用できるだけの材料がないのでどうしようもない。日頃の行いってあるよね。


「案内、早く。」


 朝日さんは僕と手を繋ぎながらそう言う。石橋君はそれを見てなにか言いたそうにしたものの、なにを言っても自分がダメージを受けるだけだと判断したのか黙って案内を始めた。


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