40 「プラスになることしないんだもん。」
時は流れ、今日は夏休み前最後の日。今日は普段通りの授業がなく、一時間目は夏休み前の全校集会で、それが終わった今は十分間の休み時間。次の時間にはこの前のテストの成績が返ってくるということで、教室の中はなんとなく緊張感が漂っている。
まぁ、返ってきたテストがオール満点だった僕は緊張しないんだけど。ただ、緊張はしなくても心配はする。だって、どう見ても朝日さん――
「朝日さん、顔色悪いけど大丈夫?」
「う、うん。たぶん。」
緊張からか、明らかに顔色の悪い朝日さん。誰がどう見ても大丈夫じゃないんだけど、本人が大丈夫という以上は信じるしかない。というか、緊張から来るのはなにもしてあげられない。朝日さんのテストの点数を見たけど、二十位以内に入れるかどうか微妙という一番緊張するやつだった。もっと高かったら安心できるんだけどね。
「緊張してもどうしようもないと思うよ?今できるのは――」
「わかってる。でも、緊張する。」
ですよねー。こういうときに上手く緊張を解く方法はないものかと思うけど、結局は本人がどうにかするしかないと思う。あくまでも僕は他人だしね。でも、隣で胃のあたりをさすってる様子を見ると、どうにかしてあげたくなる。
「だったら、絵のことでも考えたら?」
「絵――うっ、もしダメだったら、絵が描けなく――」
「ごめん。逆効果だったね。」
別のことを考えれば緊張も忘れると思ったけど、朝日さんの場合は好きなことがストレスの原因って言うパターンだった。
「夕、お前ほんと――痛い痛い痛い!」
石橋君がまたなにかを言おうとしていたので、余計なことを言う前にアイアンクローをしておく。先手必勝ってね。
「ちょ、夕!俺まだなにも変なことは言ってないだろ!」
「
「
「謎の連携やめて!」
お腹をさすりながらも、僕の欲しい返答をくれる朝日さん。最近仲良くなれてきた気がしてちょっとうれしい。なんか、猫が懐いてきたみたいな感じかな?いや、それもちょっと違うか。うーん、どうもうまい例えがない。
「だって、石橋君僕らにとってプラスになることしないんだもん。」
「めんどう。」
「声大きいしね。」
「あと、筋肉が見てて暑苦しい。」
「俺酷い言われようだな!なにかそんなに言われるようなことしたか!?」
「女子を見る目が犯罪者のそれ。」
あー、なんか男から見てもそれどうなのってくらい女子のことをジロジロ見てるな。見られる側の女子からすればかなり嫌だろうな。僕もジロジロ石橋君みたいな人に見られたら嫌だし。というか、金髪で日に焼けた黒い肌が異常に似合わない。これならまだ最初のほうがモテたんじゃないかと思う。
「ちょ、なぜ!?俺は紳士だぜ!?」
「それはない。このクラスで紳士は逢音と六分儀くらい。」
あ、僕も入ってるんだ。それは光栄だな。
「くっそ、二人ともイケメンで成績優秀者じゃねぇか!顔か!顔なのか?」
「違う。立ち振る舞いが紳士。」
「どうやったら身に着くんだよそれ!夕!教えろ!今すぐ!」
「まずモテようと思う気持ちを捨てるところから始めようね。」
「それじゃあ意味ねぇだろ!」
僕が思いつく限り最良の答を出したのに、石橋君は机をバンと叩いてきた。ひぃ!机がギシッて悲鳴を上げた!その筋肉の鎧怖いんだけど!
「じゃあ、六分儀君に聞いたほうがいいんじゃないかな?」
「それもそうだな!」
ごめん六分儀君。人柱になってもらうよ。でも、君には力強いカノジョという味方がいるからどうにでもできるよね。というか、どうにかしろ。毎日のように教室のみんなに砂糖を吐かせるんだからそれぐらいはしてくれ。
「ちょっと!石橋くん!蛍くんは私のなんだからね!」
「い、いや、俺はただ――」
「ダメ!蛍くん困ってるでしょ!蛍くんを困らせるのはダメ!」
教室の後方からそんな声が聞こえてきた。どうもどうやら六分儀君のカノジョである黒曜さんが石橋君と戦いを繰り広げてるらしい。六分儀君の腕に抱き着いて石橋君を追い払おうとする黒曜さんと、抱き着かれてるせいか真っ赤になる六分儀君。普段からイチャイチャしてるくせになんで恥ずかしがるんだろうか。
「青春してるね。」
「甘すぎ。」
どうもどうやら朝日さん的に、二人は甘すぎでお気に召さないようだ。僕からすれば微笑ましいとは思うけど、確かに場所はわきまえてほしいと思うこともあるしね。
「確かに甘いよね。ただまぁ、今ばっかりはそれに救われてるんだけどね。あ、石橋君が二人のイチャイチャに屈して倒れた。」
バタンとその場で倒れる石橋君だけど、その場所が悪かったらしく近くにいた
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